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第1章 御子田の郷
仙千代が生まれたのは、北近江にある御子田の郷と呼ばれる村里である。
この郷の領主である神子田一族は、かつての主家、京極家が没落して以降、浅井家の被官となっていた。
仙千代が物心ついた時には、すでに家督を継いだ父が配下の兵を率いて浅井長政にお仕えしており、仙千代は漠然とながら、いつかは父のような武人になりたいと思っていた。
しかし──
──天授の美童。
仙千代が成長するにつれて、そのような評判が広まった。
そう讃えるのは、神子田家の家臣や奉公人ばかりではなかった。
ときには一目見ただけですっかり懸想した百姓が屋敷に忍び込み、狼藉を働こうとしたところを家臣に取り押さえられて、手討ちにされることさえあった。
「仙千代の美しさは本人のためにもならぬのではないか?」
彼の父、神子田長門守がそう懸念を抱くのも無理はなかった。
血の繋がった実父の眼をしても、仙千代の並外れた美貌は、男を惑わせるあやしきもの、異形めいたものとして映った。
もともと神子田氏は武力を頼りに先祖代々の領地を守り抜いてきた尚武の家系であり、仙千代は三人兄弟の次男である。
兄は父に似て剛の者であり、弟もまた幼いながらも神子田の血の性質を色濃く顕していた。
「仙千代のような男児は、この戦乱の世、武門の子として生きるのは難しい」
そうして齢わずか八歳にして、仙千代は仏門に入れられた。
彼の預けられた寺は領内にあり、和尚も神子田家に所縁の者であるため、決して無下には扱われなかったものの、幼い仙千代には親兄弟と引き離されて暮らすのは寂しいことであった。
また、家族の暮らす居館が近くにあればこそ、その噂はいやでも耳に入ってくる。
仙千代はその胸のうちにひそやかに、狂おしいばかりの孤独を募らせていった。
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