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「仙千代さま、お父上さまの命により還俗されることになりました」
その報せが来たのは、彼が寺に入ってから半年が過ぎた頃だった。
──神子田の邸に、家族のもとに帰れる!
出家して以来、ずっとふさぎこみがちだった仙千代の顔が、ぱっと輝いたのは言うまでもない。
その日のうちに屋敷からのお迎えが来て、仙千代は夢にまで見た「我が家」に帰った。
家族そろっての夕餉には仙千代の好物──鱧のおすまし、雉の焼き物、栗の甘露煮などが並べられ、皆で仙千代の還俗を祝った。
仙千代も腹いっぱい食べて、宴もたけなわを迎えた頃、
「ところで」
父が切り出した。
「仙千代、小谷城に行ってはくれまいか?」
それは質問の形をとってはいたが、異を唱える余地は残されていなかった。
──ああ、そういうことだったのか……。
仙千代はひとりごちた。
父が慌てて彼を屋敷に呼び戻したのは、浅井家に人質に出すためだった。
父が選んだのは仙千代だった。
兄でも弟でもなく。
仙千代を差し出すと決めたのだ。
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