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翌月もまた、陽光は果恋をデートに誘った。
場所は、上野の国立科学博物館だった。
「僕も果恋も理系だから、科学博物館がいいかな、と思って」
「うん。ありがとう。とっても楽しみだよ」
そうしてふたりは、小さい子供から年配の方たちで賑わう博物館に入っていく。
日本館の中では、さまざまな生物の化石や剥製などが展示されていた。
「ヒグマって、体長が二メートルほどもあるのね」
果恋は、ヒグマの剥製を見て、その大きさや力強さに躍動感を感じる。
「うん、ヒグマは日本の陸地に生息する哺乳類では、最大の種なんだ」
「そうなんだね。あっ、こっちに展示されているニホンジカ、角が立派でスラリとした体格をしていて、毛並みも綺麗」
果恋は、夢中になってたくさんの剥製を見てまわる。
頭部がオレンジ色で体色も美しいコマドリ、深い緑色が特徴的なメジロなどが印象的だった。
「あ、見て。イリオモテヤマネコは耳が小さいね」
果恋は表情をゆるめる。
「そうだね。かわいらしくも雄々しい姿をしてるね。向こうには、ノウサギが展示されてるよ。雪が積もる地域では、冬毛が白くなるんだね。夏毛は茶色だから、多雪地域では効果的な隠ぺい色として機能しているんだね」
陽光と果恋は、日本館のほかにも地球館を見てまわり、ふたりの知的好奇心は満たされた。
博物館を出たのは夕方だった。
「あのね、陽光。先月の港の見える丘公園と今日の国立科学博物館のお礼がしたい」
「お礼だなんて……」
「とにかく、一緒に新宿に行きましょう」
「う、うん。わかった」
新宿につくと、果恋は目星をつけていたのか、駅を出て新宿通りに面した男性向けの洋服を扱った路面店に陽光を連れて行く。
「陽光は、普段青やグレー、黒系統の服が多いでしょう。だから、たまには違う色の服もいいかな、と思って」
果恋が買ったのは、ベージュのカジュアルシャツだった。
「ありがとう。嬉しいよ。自分では、なかなか違う色の服は買わないから」
「良かった。喜んでもらえて」
こうして、ふたりの幸せな日々が過ぎるのは早く、季節は秋となっていた。
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