思い、出戻り、恋の行方。お別れ前夜。

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 男の薬指にギチギチにハマったリングを見た。  うわぁ。これ、いくつあるのさ。  1,2,3……駄目だ、数え切れる量じゃない。そして私は無数の光が『飛び立たなかった』ことを思い起こした。  ひょっとして、まさか。  私はひょっとして、何百人もの男と付き合ったという記憶はあったがその詳細についてはお別れリングの作用で忘れてしまっていた。ひょっとしてそれは『何百人』という人数ではなく『のべ何百人』というだけで、全てはこの男一人と付き合っていただけというのか?  慄く。確かに顔はものすごく好みではあるのだけれど。  本当に恐る恐る、主には怖いもの見たさで全てのお別れリングの効果を解除した。1回も2回も同じだろ、そんな軽い気持ち。けれどもその途端、『のべ何百人分』ものこの男の出会いと暮らしと記憶喪失が頭に去来し、あまりの脳みそへの負荷がもたらす痛みにのたうち回った挙げ句、ほとんど同じ経緯で出会ってほとんど同じ暮らしをして、ほとんど同じところでブチ切れて飛び出すことを繰り返しているということを理解した。  私……別にモテモテじゃなかったのか。ひどく落ち込んだ。  落ち込んで……それでなんかもうどうでもよくなった。  生まれ変わったらまた会いたい、という男女はまま聞くが、私たちは全ての記憶を失ってなお、何百回もめぐりあい直し、付き合い直してぶっ殺したいと思いながら別れているのか。  そうするとなんだかこの出会いが奇妙に運命的なものに感じ、何百回もブチ切れ続けると彼の欠点は飽和しすぎてもはやどうでもよくなってきて怒りも淡雪のように溶け、相変わらず好きすぎるその美しい顔の唇に口づけをした。  きっと私とこの男は明日の光を一緒に迎え続けるだろう。何百回も別れても何百回も出会い直したくらいなのだから。 了
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