前編

1/1
前へ
/2ページ
次へ

前編

    「まだ眠くはないが……」  ふと時計を見れば、午後11時を過ぎていた。そろそろベッドに入らないと、明日の仕事に差し支えるだろう。  パソコンのスイッチを切る前に、改めて最後に、画面右上にある『時計』を確認する。正確には時計というよりカレンダーなので、日付や曜日も表示されていた。  今日は10月12日。明日は10月13日、つまり10月の第2水曜日。  月2回開催されている、『Jeder Stern』の短編コンテストの発表日だ。  私はいくつかの小説投稿サイトに登録しているが、『Jeder Stern』もその一つ。小説投稿サイトにはそれぞれの特徴があり『Jeder Stern』にも他と違う点がいくつかあるが、私にとっての『Jeder Stern』は、毎月2回短編コンテストが行われているサイトだった。  小説投稿サイトのコンテストには、受賞すれば小説家としてデビューできるような大きなものもあれば、受賞しても書籍化や賞金はなく、ささやかな記念品だけという小さなコンテストもある。  このうち『Jeder Stern』の短編コンテストは、どちらかといえば小さなコンテストで、賞金はあるけれど作家デビューには繋がらない。それでも毎回テーマに即した短編を執筆するというのが面白くて、私は『Jeder Stern』登録以来、毎回参加していたのだが……。  2年ほど続けても、全く結果が出なかった。賞金のもらえる金賞・銀賞・銅賞はもちろん、賞金はないけれど受賞扱いの佳作にも選ばれない。それどころか、佳作の下にある優秀作品――受賞扱いではないが結果発表ページで紹介される――の枠にすら、全くかすりもしなかった。 「ああ、私の実力は、その程度なのか……」  モチベーションが低下して、しばらく私は『Jeder Stern』から離れてしまうくらいだった。  ひょんなことから「また『Jeder Stern』の短編コンテストに応募しよう!」という気持ちになったのは、別のサイトのコンテストのおかげだった。  そこで中間選考に通過した短編は、もともと『Jeder Stern』短編コンテスト第254回「おはようからおやすみまで」応募用に書いた作品だったのだ。 「『Jeder Stern』に応募してダメだったものでも、他で評価されることがある……」  しょせん『中間選考通過』だけで最終的には落選したのだから、『評価された』といってもささやかなものだが、それでも嬉しかった。そして、それが「『Jeder Stern』短編コンテストに応募しなければ、生まれることもなかった作品」というのは、私をハッとさせる出来事だった。  そう、『Jeder Stern』短編コンテストは、単なるコンテストではない。作品発想のきっかけとなるテーマを与えてくれるイベントでもあるのだ。  新しい作品を執筆するための場だと思えば、結果なんてどうでもいいではないか。『Jeder Stern』では評価されずとも、後々ほかのところで評価される可能性もあるのだから!  そう考えて、久しぶりに参加した『Jeder Stern』短編コンテストが、第279回の「離婚」。その結果発表が、明日10月13日。  かつての私にとっては毎月2回の恒例行事に過ぎなかったけれど、今回は久しぶりの発表日なだけに、なんだか特別感がある。  いや『特別感』の理由は、それだけではなく……。    
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加