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《教室での会話》
昇級試験から次の日。
「あぁ〜.....燈弥の熱まだ下がらないのかー。このまま学校来ずに夏休み突入とかないよな?」
机にぐでっと頬をつけた湊都が寂しそうに言った。試験が終わってその打ち上げでもしようと、将翔の部屋にいつものメンバーで集まったが燈弥が一向に来る気配がなかった。連絡もつかないときて、将翔が様子を見てくると言い、慌てて部屋を出ていった。
しかしその後、将翔が帰ってくることはなく、湊都のスマホに燈弥が熱を出したと連絡のみが来た。
湊都達4人も将翔の後を追うように燈弥の部屋まで行ったが.....
「お見舞いに行ったら何故か将翔君に追い返されたよねぇ。なに?あの2人付き合ってるの〜?」
「それは違うんじゃないか?俺には姫を守る騎士のようなものを感じた」
「清継ってばロマンチスト〜」
「なんだ知らなかったのか?俺は結構そういうの好きだぞ」
「俺も好きだぜ。ロマンチックなもの!」
だんだんと話が逸れていき、ついには燈弥の話題から昇級試験の話題になった。
昇級試験――試験を経て湊都はランク参に、芙幸はランク漆に。清継だけはランク伍残留となった。
「やはり会長と風紀委員長が居るチームは試験クリアか。俺達も頑張ったんだが、異能なしだとてんでダメだな。やむなく棄権した」
「それが正解だよー。普通は勝てないって。僕も本当は棄権したかったんだよ?けど会長信者が『まさか棄権なんて考えてないですよね?棄権するなら事故死させますよ?』みたいな目で見てくるからさぁ......まぁ棄権できないよネ」
「あぁ、あの書記か」
だろうなという顔で清継は咲谷 満という男を思い浮かべる。あの男はとにかく会長である神崎 竜一の評価を下げることを嫌う。棄権などさせるわけないだろう。
「結局は僕と信者君が囮して、会長がパパパーッと倒しちゃった。実質会長1人で倒したようなもんだよアレ。なのに僕のランクが上がったのおかしいよね〜」
「先生はちゃんと芙幸の行動を評価したってことだろ。何もおかしくねぇよ。芙幸は自分が思ってる以上に重要な役割をこなしたんだって!俺はそう思ってる!ただ自覚がないだけじゃね??」
「ぅ、そうかなぁ?」
「ぜってぇそう!交流会のときといい芙幸は咄嗟の対応力が優れてる!」
「ちょ、やめて!?そんなべた褒めするような言葉と顔っ!!めちゃくちゃ恥ずかしいから!!」
湊都の言葉に芙幸はむず痒そうに身をよじらせた。頬がうっすらと赤みを帯びており、どうやら照れているようだ。
2人のやり取りを眺める清継の口元にも笑みが浮かぶ。
「そ、そうだ!!湊都のとこのチームはどうだったの!?風紀委員長はどうやってカタラ倒した!?会長は近距離型異能者だからわかるけど、遠距離型異能者の委員長があのカタラをどうやって倒したのか知りたいなァ!?」
話を変えるように芙幸は湊都に聞く。
清継から見れば些か強引すぎな話題転換だが、湊都はそうは思わなかったらしい。ヴァイオレット色の瞳をキラキラさせて意気揚々と語り出した。
「永利はすっげぇんだ!!上半身が鶏で下半身がマネキンのカタラと戦ったんだけど、俺が斬り合ってる隙をついて銃弾を鶏の胸部分に撃ち込んでんだよ!最初は硬くて弾かれてたけど何発か撃ったときに、銃弾がめり込んで....そっからはもうめり込んだ銃弾を後押しするように同じ部分に撃ち込んでた。まぁ最終的にはアイスピックを突き刺して倒したけど」
「銃とアイスピック.....チョイスがまたなんとも言えないね。.....武器選びは委員長が指定したんだぁ〜?」
「ああ!でもそれは俺以外のチームメイトが何を選んでいいか分からずオロオロしてたからで、永利が勝手に決めたってわけじゃないぞ!?」
「いやいや〜彼は勝手な暴君だよ。どうせ高圧的な物言いで意志を押し通したんでしょ?」
「なっ、永利を悪く言うなよ!!あいつはただ不器用なだけなんだ!チームの奴らが怪我をしないよう率先して1人で戦おうとしたり、戦いたくないなら見とけってメンバーの意思を尊重したり.....」
口早に風紀委員長について語る湊都に芙幸は苦い顔をする。芙幸としては彼に恋する湊都を否定したい訳では無い。ただ、ちゃんと見ろと言いたいのだ。
率先して1人で戦おうとした?
――それは他のメンバーが役に立たないからでしょ
戦いたくないなら見とけと彼らの意思を尊重した?
――足でまといになるから手を出すなって意味じゃん
湊都は気になる彼のことになると盲目的になるきらいがある。
だから芙幸は心配しているのだ。緋賀 永利という人間の本性を知った時、こうまで盲目的に彼を肯定する湊都がどう行動するのか。
その行動の果てに湊都が傷ついてしまうのではないだろうか?と。
「あーはいはい。僕が悪かったよ。風紀委員長はとってもいい人だねぇ」
でも芙幸は緩く笑って、湊都の言葉を肯定する。
そして机の上に腕を組み突っ伏し、腕の中で悔しそうに唇をかみ締めた。
(情けないなぁ。あんな敵意の視線を向けられただけで手のひら返すなんて.....僕はただ緋賀の本質をちゃんと見てほしいから否定的な言葉を言っただけなのに。なにか他の方法で湊都の目を覚まさせないと.....)
湊都に嫌われるのが怖い芙幸は周りの音をシャットダウンし、悶々と思考の海に沈んでいった。
「芙幸....急に寝ちまったけど、そんな眠かったのか?」
「さぁな。ところで話は変わるが、湊都は夏休み帰省するのか?」
芙幸が会話から外れ、残された湊都と清継の話題は夏休みについてに変わる。
「俺は寮に残るぜ!実家から帰ってこいって手紙がきてるけど、親が子離れできるいい機会だと思うから俺は帰らねぇ!」
「親が子離れできてないのか....そんな事例初めて聞いたな」
子離れできていない親というのが珍しいのか、清継がまじまじと湊都を見つめるため湊都は居心地が悪くなった。それでも目を泳がせながら、話を強引に戻す。
「そ、そうか?――うぉっほん!清継はどうなんだ?夏休み帰省するのか?」
「ああ。俺と芙幸は帰省する」
「そっかぁー.....寂しくなるなぁ」
「....寮に残る生徒がいるってことは、風紀の見回りもあるってことだ。少なくとも暇で死にそうになることは無いだろう」
「それ全然うれしくねーよ。フォロー下手か!」
「む」
そう清継に突っ込んだが、内心期待で胸がバクバクしている湊都。
夏休み中にも風紀がある。
それはつまり、夏休みでも永利に毎日会える可能性があるということ。
(うぅ〜!夏休みが待ち遠しい!!)
湊都は数日後に迎える夏休みに胸を躍らせる。
《side end》
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