命尽きるまで貴方を想ふ②

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《side ???》 私が産まれたのは少し裕福でとても暖かな家だった。 いつもニコニコ笑って優しいが、父を尻に敷く強かな母。 教育に厳しくも母に激甘な父。 周りから「仲良い家族だね」と言われるくらいに家族仲はよかった。 いつも3人で食卓を..... ​─────ザザッ 3人? ​─────ザザッ ち、がう ​─────ザザッ ちがう 私には、いや....僕にはもう1人家族が居る ​─────ザザッ 『■■っ、起きろ!』 ​─────ザザッ 僕の側に居るのは.....兄弟? ​─────ザザッ ​─────ザザッ ​─────ザ ​─────ザ 「起きて」 聞き心地のいいテノールの声。微睡みからすくい上げるような優しい声にまぶたが震える。 でも、まだ寝ていたい。 微睡みに意識を預けようとした、その時。 雨の日に部屋干しした洗濯物のような臭いが鼻いっぱいに広がり飛び起きる。 「クッッサ!!!!」 「早く起きないからだよお馬鹿さん。昼食を取り損なって不機嫌になるのは君なんだから、ほら起きた起きた」 「えっ、もう昼?じゃなくて何この臭い!?めちゃくちゃ臭かったんだけど!?なんというか.....そう生乾き臭!!」 元凶である彼の手に持つ花に目を向ける。ラフレシアでも持っているのかと疑ったが、想像とは違い小さなピンクの花が集まった可憐な花束がそこにはあった。 「そんなに臭い?まだ乾燥が足りなかったかな....これドライフラワーなんだ。可愛い花でしょ」 「臭いは可愛くないけど」 ​─────ザザッ 嗅いだことのある臭い ​─────ザザッ 「見た目も匂いも完璧な花よりどこか欠点あったほうが可愛いじゃん」 「.....そういうものなの?」 「私はそう思う。さて、乾燥が足りなかったらしいこら.....ここで乾燥させようかな」 そう言って彼は日陰に花束を並べた。 「風に飛ばされない?」 「まぁその時はその時さ」 「テキトーだね....」 「完成したらあげるよ。そのために今頑張ってドライフラワーの勉強してるんだ」 「楽しみにしとく。そういえばあの花の名前は、なんて言うの?」 「それは.....食堂で話そうか。お昼の時間は限られてるし、お腹すいたでしょ?行こ」 「うん.....っ?」 立ち上がろうとして、目眩に襲われる。足元がブレるように歪み地面に倒れると思ったが、逞しい身体に支えられた。 「大丈夫!?」 「だ、大丈夫。ちょっとふらついただけ」 「顔色悪いよ?保健室行こうか??」 「大丈夫だって、お腹すいたから食堂行こ」 「本人がそう言うならこれ以上言わないけど....辛い時はちゃんと辛いと言うんだよ」 「わかってる。もう耳にタコができるほど聞いたよそのセリフ」 彼と話していると心が浮ついて正常な判断ができない。いつもそう。 .....でも、今日はなんだかおかしい。あのふわふわとした感じはしなくて、漠然とした不安が心を覆っているみたい。 だって頭の奥。反響するように何度も聞こえる。 ​─────ザザッ まるでテレビを見ているよう。ただそのテレビは何も映らず、早くチャンネルを変えろと言わんばかりに白黒の砂嵐が映っている。 不快で、不安になる音。 「っ、やっぱりちょっと待って。服装整える」 服を整えるフリして目を閉じる。そして息を吐いて、大きく吸い込む。 今から大好きな彼と一緒に食事。気分悪いままでなんて絶対に嫌。 ​─────ザザッ 大好きな彼って? ​─────ザザッ .....か、れは彼だ。 僕が恋焦がれて仕方なくて、どうやっても手が届かない人。大切な人。いつだって僕を支えてくれる人。 ........ ........ ........ ふと砂嵐が止んだ。 「....やっぱり保健室に行こう」 「ううん大丈夫。もー心配しすぎ。ただ服を直してただけじゃん。早く食堂行こ!.....私はイタリアンな気分だなぁ〜。孝仁は?」 そう孝仁。彼の名前。 この学園の人気者。会長には負けるけど.....いや会長は孝仁だ。僕は何を言ってるんだ?彼が1番かっこよくて、頼りになって、優しい人じゃないか。 「う〜ん、私はサンドイッチ」 「いつもと一緒じゃん」 「今日はフルーツサンドだから一緒じゃない」 「サンドイッチには変わりないじゃん!」 「も〜、文貴は細かいこと気にしすぎ。ほら行くよ」 手を差し出され、僕はなんの躊躇いもなくそれに飛びつく。手を繋ぐなんて足りない。僕は腕を抱くようにギュッっとくっついた。 「もう1回名前呼んで」 「文貴」 「もう1回」 「仰せの通りに、文貴様」 文貴。文貴、文貴文貴文貴文貴..... 僕は文貴。 孝仁に名前を呼ばれるだけで胸が甘く疼き、口元がニヤけてしまう。慌てて顔を下げる。こんなだらしない顔、孝仁に見せられない。 「縄に引っかからないよう気をつけて」 鉄製の扉をくぐり、一旦孝仁から離れて赤い縄を跨ぐ。 「ふ、ふふ。我ながらいい案だったね」 「なにが?」 クスクスと笑う孝仁に再びくっついた僕。孝仁の視線の先を辿ると赤い縄を繋ぐ2本の金色のポール.... ロープパーテーションポールがあった。 「懐は痛かったけど、誰の目も気にせず過ごせる場所が確保出来たのは良かった。やっぱり人って行く手を阻むように物が置かれた道には行かないものなんだね」 「.....もともと誰も近づかない場所じゃん、ここ。風紀室通らないと来れないし」 「違反さえ起こさなければ緋賀は出てこないよ。それに、もし違反だとしてもあそこには行く価値がある。ふふ、見晴らしが素晴らしいと思わない?」 「森しかないよ」 「いいね、自然に包まれてる。街では考えられない空気の美味さだ」 「貪る影(カタラ)(いなな)きも聞こえる」 「スリルがあるなんて最高。ここでしか味わえない」 「......ポジティブバカ」 「褒め言葉と受け取っておくよ」 食堂に到着。 足を踏み入れると一斉に視線が孝仁に向いた....ような気がした。僕の気のし過ぎ?なーんか熱い視線が多い.....。 「文貴はイタリアンだっけ」 「....気分が変わった。鉄板ナポリタンと牛丼、あとラーメン」 「野菜も食べなさい」 「じゃあ追加でシーフードサラダ」 「うん、偉い」 子供扱い。たった1個下なだけなのに。 .....ううん。これは僕が悪いか。だってこのやり取りを楽しんでいる。『偉い』と言われたがために毎日こんな事を.....。 「――あ、ああの!!」 「ん?」 あぁ、まただ。可愛らしい同学年の男の子が頬を染め孝仁の前に立つ。 「おはっ、お話があるのですが.....後でお時間よろしいですか?」 「うん、もちろん。放課後でいいかな?」 「はいっ、あのっ....校舎裏で待ってます!」 「あぁダメダメ。そんな人気のないとこに君みたいな可愛い子が1人で行っちゃ危ない。迎えに行くよ。君はどこのクラス?」 「はひっ、あぅ、Bくらすでひゅ.....」 「Bね。じゃあ放課後」 見たくなかった。孝仁がどんな顔をしているのか。だから興味のないふりをしてスマホを弄った。.....本当は耳も塞ぎたかったけど、流石にそれをやったら不自然だから、やめた。 「お、きたきた。....いただきます」 「いただきます」 そして何事もなかったように孝仁は世間話に興じる。あの花の名前も、面白い本の話とかも、全く頭に入らず、僕は先程のやり取りに心乱されていた。 ついには、耐えきれず聞いてしまう。自身の醜い心の内の一片を、さも無垢な問いかけであるようコーティングして。 「......孝仁って誰かと付き合わないの?」 「えっ、なんで急に」 「いっぱい告白されてるのに、誰とも付き合わないから....不思議だなって」 「ん〜、ほら....私は文貴の世話があるし。誰かと付き合う余裕なんてないよ」 「そんな嘘――」 「せめて洗濯くらいできるようになればなぁ〜」 「うっ、ど、同室の子がやってくれるから!!わざわざ孝仁が来てまでやらなくていいよ!」 「はぁ.....そう言って何回服盗まれて部屋替えしてもらったの。宮寮監が驚いてたよ。こんな頻度で部屋替えする子は初めてだって。何か変なフェロモン出てるんじゃない?」 「〜〜〜っ私のことはもうほっといて!!」 「あっ、文貴!!」 こっちは真剣に聞いてるのにふざけたことばかり!孝仁はいつもそうだ!! そんなに僕に本心を話すのが嫌なの?面倒臭いなら面倒臭いって言えばいいのに....! 僕は逃げるように食堂を後にした。
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