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心が沈む。孝仁にあんな事を言ってしまって、僕はいったい何がしたいのだろうか?
孝仁が離れて苦しむのは僕だというのに。
「はぁ....」
「ため息つくとシアワセが逃げちゃうよ〜」
「!?」
逃げた先、誰もいないはずの空き教室に声が落ちる。侵入者に反射的に魂写棒を向けるが、見覚えのある顔に始動するか迷う。
ところどころ肌の色が違うツギハギの顔。1度見たらなかなか忘れられない風貌の生徒だ。
名前は確か.....
「萩野君?」
「そうそう、容姿のせいで悪目立ちする萩野君デース。こんなところでなにしてんの〜?」
「そっちこそ」
「ここは俺のサボり場だからさぁ。で、かわい子ちゃんは?」
「.....私もサボりです」
「あらまぁ、優等生の鳥羽 文貴クンがサボりとはこりゃたまげた〜〜」
「っ、私の名前.....!」
「え!?そんな警戒しないでよ。鳥羽クン結構有名なんだよ?文武両道の綺麗なΩの子が居る!!って」
向けられた目に後ずさる。性的な視線では無いけど、なんというか.....不快な眼差しだった。
「う〜ん。構えるだけとか.....もうちょい危機感持った方がいいよ鳥羽クン。俺はαで鳥羽クンはΩ。もし発情期になったらどうするの。こういうシチュエーションの時は一目散に逃げないと」
不快な眼差しは一転、好青年のような爽やかさを瞳にのせる。もしかして警告するためにワザと不快感を抱かせるようなことを?
......悪い人じゃないのかな。
まだ油断はできないけど。
「もし事故でつがっちゃったら孝仁クンが悲しむよ〜」
「なっ!なんでここで孝仁の名前が出てくるの!?」
「?.....だって好きでしょ彼のこと」
「好!?!!」
バレるはずがない。僕は人前では適度な距離感で孝仁に接している。萩野君が言ってる「好き」というのは恋愛的なものでは――
「君らを見かける度に、あぁつがいたいんだなぁって微笑ましく思ってた。もしかしてその反応....隠してるつもりだった?ふwwそれはウケるww全然隠せれてないしw」
顔が熱い。羞恥心に今すぐ叫び出したい。
でも同時に、嬉しく思う気持ちもあった。僕のこの感情を軽蔑せず、なんてことないよう笑いながら話すのは彼が初めてだから。
大抵は良くない顔をする。
「って、あれ?そんな浮かない顔してどしたの〜」
「萩野君は私のこと気持ち悪いと思わないの?」
「気持ち悪いぃ??なんで.....?あっ、常識的に考えてか!!いや〜、俺は常識嫌いだからさぁ〜。ほら俺って見た目からして常識外れじゃん?そんな俺が常識を語るとかちょ〜ウケるww」
ケラケラ笑う彼に警戒心が薄れる。なんというか、見た目からして彼のことをヤバい人間と認識していたが、彼もまた常識に苦しむ人なのだと知ると親近感が湧く。
だから僕は彼の手招きするがまま側へ寄ってしまった。常識を嫌う彼と、もう少し話しをしたいと思ったから。
――こんなの孝仁が知ったら大激怒するだろうな。出会ってまもない男と2人きりで話をするなんて!って。
頭によぎったそんな思いを見て見ぬふりしながら、膝を抱えて隣に座る。
「そうかそうか、鳥羽クンは常識を気にしてるのかぁ。.....このこと他に誰が知ってる?」
「私の口からは誰にも言ってない。態度で気づかれたのは萩野君が初めてだよ」
「ふ〜ん、他にもバレてそうだけどねぇ。ほら居るじゃん、人間観察を趣味にする猫ちゃんとか」
「猫が人間観察?」
「まぁちょっかいはかけて来ないだろうから気にしないでいいよぉ。......さて鳥羽クン。鳥羽クンは現状維持したい?それとも結ばれたい?」
「そんなの後者に決まってる。誰にも孝仁を渡したくないし、誰かの隣に居る孝仁も見たくない」
ずっと胸に秘めていた思いがするりと口から飛び出た。あっ、と手で口を覆うがもう遅い。
萩野君はニヤリと笑い「言うねぇ」とからかってきた。
「そんなにはっきり言えるなら本人に言っちゃえば?『孝仁を誰にも渡したくない』って」
「い、いぃ言えるわけないでしょ!?孝仁は普通で、私のことはそういう目で見てないんだから!」
「そういう目で見てない.....かぁ。どうやら鳥羽クンから見る孝仁センパイと俺から見る孝仁センパイは別人っぽいね〜」
「それはどういう意味」
「ん〜俺にはお手上げって意味」
「......別に解決策を求めてるわけじゃないから。話聞いてくれてありがと」
腰を上げる。本音を言ったせいか、孝仁が心配になってきた。今頃囲まれているんだろうなと思うと、早くそばに行かなきゃと焦りが頭を支配する。
拗ねてる場合じゃない。
「おっと、ちょっと待って。最後に一つ」
「なに?」
「図書委員長に相談してみるといいよ〜。彼はどんな事があろうと真摯に向き合ってくれる。きっと鳥羽クンの背中を押してくれるさ。もし勇気が欲しくなったら放課後の屋上に行くといいよぉ」
勇気。
ストンと心中に落ちたその2文字は、今の僕に最も必要なものなのかもしれない。
─────ザザッ
─────ザザッ
図書委員長って、誰?
─────ザザッ
ノイズが、砂嵐が頭をよぎり、視界がブレる。
......図書委員長、
彼はクラスに所属しない特別な生徒。
学園一人気があって、学年一優しい....
『人格者』
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