命尽きるまで貴方を想ふ②

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戦いにおいて、痛みを感じないというのは戦いを有利にするだろうか? 竜一は一度そんなことを藤間(とうま)に聞いたことがある。弥斗には痛みを度外視した特攻が効果的なんじゃないかと思っての質問だった。 その質問に神崎家唯一の執事はシワの刻まれた顔をくしゃりと歪め微笑む。 『時と場合ですよ坊っちゃま』 『痛みをものともしない特攻は時に恐怖を抱かせることがあります。効く人間にはとことん効く戦法でしょう』 『ですが』 『恐怖しない人間もまた居るのです。恐怖を狂気をものともしない猛者がこの世には存在します。そんな相手にはむしろ悪手となるでしょうな』 『本来痛みを感じるというのは生命活動するのに不可欠な機能です。痛みを感じなければ自身の身体が発するアラートも聴き逃し、また危機感の欠如も促します。生きるということにおいて痛みはとても大切なものなのです坊っちゃま』 痛み、そう痛みだ。 竜一は弥斗に刺された腹部の傷と、切り裂かれた背中の傷、そのどちらも痛みを感じている。たとえアドレナリンを分泌しようと痛みは完全になくならず、せいぜい遠ざけるのが関の山だ。 満身創痍だろうと自身に不覚は無い ​─────ならなぜ? 心の内で誰かが囁く。 目の前で永利を斬り裂かんとするペルデレが大きく軌道を外れ、奴の頬の皮一枚を傷つけ竜一の手から離れていく光景が映るのは、 なぜ? ちゃんと太刀を握っていた。離さないよう、キツく、血が滲むまで。なのに、なぜ、すっぽ抜けるように飛んでいく? 『生きるということにおいて痛みはとても大切なものなのです坊っちゃま』 どうしてさっきから藤間の言葉を思い出すのか? 痛み、痛みは感じる。 ......いや、待て。 があるではないか。 『ミンチになればいくら保健医でも治せないよね?.....さて次はどこを切り落とされたい?僕の番を殺した君に慈悲はあげないし、楽に死なせもしない』 竜一は崩れゆく氷腕(左腕)を呆然と見つめた。 コンマ1秒を争う戦いにおいて、いちいち自身の身体など確かめていられない。だから、痛みが必要なのだ。 永利の散弾に、竜一の自身を壊すような攻撃。 壊れる要因に心当たりはある。 ​─────っ、まだだ!! 竜一はこの距離ならばショットガンを構えることが出来ないと判断し、右拳を握りながら踏み込む。 殲滅の刃(ペルデレ)が手元にないため左腕は壊れたままだが、右ひとつでも殴り殺すことは可能。しかし相手はあの緋賀である。やはり武器は必要か。 ならここは殴り飛ばし、すぐさまペルデレを取りに行くしかない。仕切り直してまた―― トン.... 思考を回す竜一を嘲笑うかのように軽やかに床を蹴る音が聞こえた。 何故か遠くなる永利の姿と、いつの間にか排莢された薬莢が視界に映る。宙に浮かぶ金色の薬莢。 排莢されたということは、つまり次弾は既に装填されているということで​─── 竜一は『まさか』と驚愕に目を見開く。 永利は冷静に、全てを見透かすような目で後ろへ跳んでいた。 床に倒れ込むように、 体勢を崩しながらもショットガンを構えて。 そんな永利の姿を目にした竜一の脳内に、 ある言葉が浮かんだ '' 引き撃ち '' 「〜~~~~~~~クソッ​────がヒゅっぁ''」 ズドンと音が鳴ると同時に竜一の身体は吹っ飛ぶ。 どうやら撃ち込まれた弾は先の2発とは違うらしい。散弾は着弾すると同時に竜一の体内へと食い破るかのように火花を散らし破裂した。 ろくに防御もできず、魔弾をモロに食らった竜一は真っ赤な血を辺りに撒き散らす。 視界を染める鮮やかな赤。 幻想的にすら思えるだろう血雨の中、 倒れゆく竜一はやはり弥斗のことを考えた。 なぜこんなにも求めてしまうのか。 なぜ忘れようとしても忘れることが出来ないのか。 なぜ弥斗は一緒に居てくれないのか。 埋め尽くすように色んな「なぜ」が回り、感情は留めなく溢れ、頬に涙が伝う。 憎い。どうして置いてったのか? 嬉しい。チビちゃんと呼んでくれた。 寂しい。なんで直ぐに姿を現さなかった? 悲しい。最後まで拒絶されたままだった。 悔しい。あとちょっとだったのに。 許せない。俺を捨てたのが。 恨み言が多く思い浮かぶ。 .....でもやっぱり最後に行き着くのは 『チビちゃん、おいで』 『愛してる』の四文字だった。 「げふっ、あ''.....っや、と''......」 弥斗、弥斗。 嫌だ。死にたくない。まだ、まだ弥斗と一緒に居たい。愛してる。話したい、触れたい、愛してる、温もりを感じたい、笑いかけてくれ、あいしてる、あいしてる、あいして.... 『この世界は僕の常識と全く違う』 『.....怖くておかしな世界』 『この先を考えると、正直逃げ出したいくらいだよ』 『でも、僕がこの世界で生き続けようと思えるのは』 『チビが....君が居るからなんだ』 『僕の片割れ、僕の大切な繋がり』 『だから、だからどうか​────ずっと僕の家族で(僕を繋ぎ止めて)いてね』 ​───ああ、やとのそばへいかなきゃ ​───だって、おれたちは.....いっしょに、いなきゃ.....ぁ...... だが竜一の想いとは裏腹に身体は1ミリも動かず、 意識は遠のいていった。
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