知って失って探して想った。

空の気持ち

「すげぇな、その柔軟。」リビングでえりかが足を前と後ろに180度に開脚をしていた。
「空も、やってみたら？サッカーも柔らかい方がいいんでしょ？」上半身を後ろにそらしながら、えりかが言った。
「どうやるのそれ？」隣で見よう見真似でやってみた。もちろん、足を180度開脚なんて出来るはずなかった。
「足を伸ばして」えりかは身を起こし俺の前に出した左足を引っ張った。
「いててて...」痛さでそのまま後ろに座り込むと、えりかが覗きこむように「空、意外と固いね」と笑った。薄いピッタリしたTシャツに、えりかの胸元が見えて熱くなってくるのが分かった。
「えりかが柔らかすぎなんだよ」見ないように顔をあげると、目が合ったえりかの瞳が揺れたように見えた。
「...あは、後は自分でやってね。」離れようとしたえりかの腕をとっさに捕らえて引っ張った。

引っ張った勢いでえりかの顔が、俺の胸におさまった。えりかが小さく見えた。小学校のときは、えりかはいつも大きい方で俺が見上げることが多かった。中学に上がってやっと、追いついた。「俺さ、えりかより大きくなったよ。」えりかは身動きしないまま、「...そう。」と呟いた。
このまま閉じ込められたらどんなにいいだろう。えりかの髪からいい匂いがした。
あれから先輩とはどうなったか気になったけど、口に出すことができなかった。
「あ、お風呂入るの忘れてた。いってくる。」と言い訳して、リビングから出た。えりかのぬくもりが残っていた。