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えりかの気持ち
日課になってるストレッチをやってると、「すげぇな、その柔軟。」玄関のほうから空の声がした。
「空も、やってみたら?サッカーも柔らかい方がいいんでしょ?」ちゃんと話すのはあの日以来だ。私は誤魔化すようにストレッチを続けた。
「どうやるのそれ?」空は近寄ってきて真似するように足を前と後ろに広げた。
「足を伸ばして」空の左足を少し前に引っ張ると「いててて...」どしんと、空はお尻をつけた。その光景が面白くて「空、意外と固いね」とつい笑ってしまった。
「えりかが柔らかすぎなんだよ」恥ずかしそうな空が顔を上げると思ったより目が近くにあって熱を帯びてるように見えた。
このまま一緒にいては、よくない気がした。「...あは、後は自分でやってね。」腰を上げた瞬間、空の手が私の腕をつかまえて、その勢いで胸の中に飛び込んでしまった。
「俺さ、えりかより大きくなったよ。」空の声が上から聞こえた。空は身長も伸びて、もう女の子に間違えられることもなかった。学校で空を見かけると周りにはいっぱい人がいて、いつもその中心に空がいた。同じ中学生になったのに、前より空が遠くに思えた。「...そう」これ以上なにも言えなかった。
どれぐらいその状態でいたのかわからない。「あ、お風呂入るの忘れてた。いってくる。」と空は思い出したように足早にリビングから出て行った。
空の匂いがまだ身体にまとわりついて、不整脈がまだ治りそうになかった。
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