不整脈

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不整脈

「トロイメライだな。」 家に帰って、1階の北側、グラウンドピアノがある部屋で弾いていたら後ろから声がした。 空はいつものように私の横に椅子を置いた。 空の母親はピアニストだった。高校卒業後ドイツの音大に通い、空が生まれるまではプロの演奏家として活動していた。 空から写真を見せてもらったことがある。女優さんかと思うほど綺麗な人だった。 空は身動きせず、しばらく指の動きを見つめたあと、ふっと空の頭が私の肩に乗った。 つい手が止まる。最近、空に近づくと不整脈がして苦しくなる。 「今日、美術室にいたよね?」声変わり中の掠れた声で空は言った。 「気がついてたんだ。」 「うん」 「あ、そうだ。手紙。空にって。」ポケットに入れてあった手紙を出し、空にさしだした。 「....いらない。」 「受け取って、じゃないと私が嘘つきになっちゃう。」 「貰わなければいいのに」空の声が拗ねているように聞こえる。 「そういうわけにはいかないでしょ。」と、空の手に手紙を入れようとしたら、手ごと捕まえられて、指を絡めてきた。苦しい。
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