夏祭り

2/3
前へ
/132ページ
次へ
『鳥居の前、6時で』 向かうと日野先輩は、待っていた。 「奥井ちゃん!」と大きく手を振っていた。 「浴衣着てきてくれたんだ、やばい、めっちゃ可愛い。」 水色を基調に淡い白っぽいピンクの花があしらわれて、濃いめのピンクの帯を合わせた。褒められて素直に嬉しかった。 「花火は7時からだから、それまで露天まわろっか。奥井ちゃん、何か食べたいもんある?」 「うーん、何があるかな、ちょっと見て決めたいかな。」 「うん、そうだね。」 日野先輩は下駄で歩きづらい私に合わせてゆっくり歩いてくれた。 「あ、奥井ちゃん金魚すくいやろ!」と無邪気な姿に私も楽しくなった。 鉄砲当ては意外に難しくって全然当たらず、隣でやってた先輩も「悔しいなー。あんまり取れなかった。はい、これだけ。」日野先輩はキャラメルを手渡してくれた。 2人でりんご飴を買って、階段の上段に座った。「ここなら、花火見えるな」 「足、疲れてない?」 「あ、大丈夫。ありがとう。」 「無理しないでいってね。なんならおぶるから。」 「いや、それは」 「はは、そりゃあそうだよね。」 「前から思ってたんだけど、奥井ちゃんってちょっと言いづらいなてさ、思って、今更奥井さんも堅っ苦しいし、おくちゃん、おっちゃん..それは良くないな。奥井ちゃんってさ、えりかって言うでしょ?えりかって呼んでいいかな?」と言ったあと「いや、呼び捨てはまずいか、えりかちゃん、えりかさん、えりっぺ」日野先輩は腕を組みながら悩んでいた。 「えりかでいいですよ。」 「じゃあ、えりかで」 「はい。」 「なら俺も日野先輩じゃなくて、拓也って呼んで。」 「た、拓也..さん」 「呼び捨てでいいよ。」 「拓也..さん。」 目が合って、先輩は恥ずかしそうに目を逸らした。 「あー、やばい。さん付けも悪くないな。えりかの呼びやすいようにでいいよ。」 花火の時間が近づくに連れて、周りに人が増えてきた。 「俺、こないだの試合最後にバスケ部引退して、これからまぁー受験やらなんやらで忙しくなるんだけど、」日が暗くなり、拓也さんの顔が見づらくなった。 「受験終わったらなんて悠長なこと言ってて、えりか取られるのも嫌だし。」 「俺さ、えりかが好きなんだ。俺と付き合って欲しい。」 ドーンと大きな音がして空が一面輝いた。 拓也さんの真剣な目が花火で映し出された。 「...はい。」 2人で花火を見ながら私の右手の上に拓也さんの手が重なっていた。
/132ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加