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『鳥居の前、6時で』
向かうと日野先輩は、待っていた。
「奥井ちゃん!」と大きく手を振っていた。
「浴衣着てきてくれたんだ、やばい、めっちゃ可愛い。」
水色を基調に淡い白っぽいピンクの花があしらわれて、濃いめのピンクの帯を合わせた。褒められて素直に嬉しかった。
「花火は7時からだから、それまで露天まわろっか。奥井ちゃん、何か食べたいもんある?」
「うーん、何があるかな、ちょっと見て決めたいかな。」
「うん、そうだね。」
日野先輩は下駄で歩きづらい私に合わせてゆっくり歩いてくれた。
「あ、奥井ちゃん金魚すくいやろ!」と無邪気な姿に私も楽しくなった。
鉄砲当ては意外に難しくって全然当たらず、隣でやってた先輩も「悔しいなー。あんまり取れなかった。はい、これだけ。」日野先輩はキャラメルを手渡してくれた。
2人でりんご飴を買って、階段の上段に座った。「ここなら、花火見えるな」
「足、疲れてない?」
「あ、大丈夫。ありがとう。」
「無理しないでいってね。なんならおぶるから。」
「いや、それは」
「はは、そりゃあそうだよね。」
「前から思ってたんだけど、奥井ちゃんってちょっと言いづらいなてさ、思って、今更奥井さんも堅っ苦しいし、おくちゃん、おっちゃん..それは良くないな。奥井ちゃんってさ、えりかって言うでしょ?えりかって呼んでいいかな?」と言ったあと「いや、呼び捨てはまずいか、えりかちゃん、えりかさん、えりっぺ」日野先輩は腕を組みながら悩んでいた。
「えりかでいいですよ。」
「じゃあ、えりかで」
「はい。」
「なら俺も日野先輩じゃなくて、拓也って呼んで。」
「た、拓也..さん」
「呼び捨てでいいよ。」
「拓也..さん。」
目が合って、先輩は恥ずかしそうに目を逸らした。
「あー、やばい。さん付けも悪くないな。えりかの呼びやすいようにでいいよ。」
花火の時間が近づくに連れて、周りに人が増えてきた。
「俺、こないだの試合最後にバスケ部引退して、これからまぁー受験やらなんやらで忙しくなるんだけど、」日が暗くなり、拓也さんの顔が見づらくなった。
「受験終わったらなんて悠長なこと言ってて、えりか取られるのも嫌だし。」
「俺さ、えりかが好きなんだ。俺と付き合って欲しい。」
ドーンと大きな音がして空が一面輝いた。
拓也さんの真剣な目が花火で映し出された。
「...はい。」
2人で花火を見ながら私の右手の上に拓也さんの手が重なっていた。
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