1.些細なイレギュラー

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 あっ、でもね、と付け足した彼女が、弁解するかのように顔をしかめる。 「別に何でもかんでも話したわけじゃないよ。ただ、申し訳ないけど、犬飼くんはもう部にいないって伝えただけ。どうしても会いたいって言うもんだから、クラスは教えちゃったけど」  そのせいで後味の悪い思いをすることになったのだけれど、それは今わざわざ言うことでもない。  伊藤先輩は「それから」と視線を宙に投げる。 「部員の誰も、君に敵わなかった。同期も先輩も。天才、なんて簡単に言いたくないけどさ、君はそういう類いのものだったよ。――って、これは私の勝手な主観だけど、そういうことは言わせてもらったね、その子に」 「全然普通に話してるじゃないですか」 「いやあ、ごめんごめん」  謝罪を繰り返すわりに、先程から言動が伴っていない。  小さく息を吐き、僕は踵を返した。 「あれ、帰るの?」 「はい。他の人が来る前に」  特に、顔を合わせたくない人物がいる。その人に会わないためにも、こうして準備室で密やかに、部長へコンタクトを取りに来たのだ。 「ねえ、犬飼くん。君はもう、本当にここへは戻る気ないの?」
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