1.些細なイレギュラー

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1.些細なイレギュラー

 世界史の授業は嫌いだ。  カタカナばかりで人名や国家名が覚えにくいとか、暗記が苦手だからとか、そんなありふれた理由じゃない。 「えー、では今日はここまでにします。重要な部分なので、各自きちんと復習しておいて下さい……」  教壇でぼそぼそと喋る声に、僕は今日も苛立つ。  世界史を担当している教師が嫌いだ。  皺のついたシャツを着て、ただでさえそこまで高くない身長は、猫背のせいで更に低く見える。  その教師が教室から出て行くと同時、授業終了のチャイムが鳴り響いた。 「ねえ、ショータ。ノート見して」  前の席に座るクラスメートの背中を叩く。  こちらを振り返ったショータが、わざとらしく「ええ?」と眉をひそめた。 「(わたる)、お前また寝てたのかよ」  その問いに頷いて、両手を合わせる。お願い、と頼み込んだ僕に、相手は満更でもなさそうだった。  このやり取りも、もう少しで十を数えることになるだろう。 「まあいいけどさあ……何でいっつも俺なんだよ。綺麗にノート取ってるやつの方がいいだろ」  言いつつノートを渡してきた彼に軽く礼を述べて、自分のノートを広げる。 「そうだよ。次から私のノート貸そうか?」
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