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理斗とまゆみの関係
約束の水曜日、首都圏の県庁所在地にあるショットバーに、理斗と唯菜の姿があった。カウンターの中ほどにふたり並んで座る。
「いらっしゃいませ」
声をかけてきた女性バーテンダーの顔に、唯菜は見覚えがある。理斗の住まいにいた女性だわ、と唯菜は確信した。女性バーテンダーは理斗と唯菜が座ったカウンターの前で、
「まゆみと申します」
と唯菜に名刺を差し出す。
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バーテンダー 本屋敷まゆみ
出勤日:月曜日~土曜日
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唯菜は名刺を見て驚いた。
(……えっ!理斗と同じ珍しい名字。でも理斗はひとりっ子だから、姉妹ではない。理斗は独身のはずだし配偶者でもない。どういうことなんだろう?)
まゆみは、名刺から視線を外した唯菜に視線を合わせる。
「わたしは理斗の父方のいとこです」
「あ、あの……、本当にいとこ?」
唯菜は半信半疑のようだ。
「わたしは藤井聡太さんの活躍で将棋のファンになりました。将棋に詳しくなりたいので理斗に日曜日に月に二回ほど教えてもらっていました」
まゆみは理斗に視線を向ける。そこで、理斗は用意していた写真を唯菜に見せた。数組の親族や子供たちとともに、初詣の記念撮影で幼稚園生くらいのふたりが神社をバックにして写っている。
唯菜は写真にふたりの面影を認めた。本当に理斗とまゆみがいとこだったんだと安心する。
理斗は申し訳なさそうに頭を下げた。
「あのね、まゆみはとてもキレイだから、唯菜がまゆみのことを誤解するかもしれないと思ってしまい言い出せなかった。つらい思いをさせて苦しかったよね。本当にごめんなさい。でも信じてほしいのだけど、僕にとって唯菜は唯一の存在だよ」
そして、理斗は唯菜の顔を見た。
「それでね、唯菜、せっかくバーに来たのだから今日は僕におごらせてください」
まゆみは他の客に呼ばれ、かわりにマスターがやってくる。
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