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唯菜の誕生日
寒い季節が終わり、生命が躍動する暖かい季節がやってきた。理斗と唯菜が知り合ってから五ヶ月、付き合いはじめてからは三ヶ月ほどが経った。そして、近づいていたのは唯菜の誕生日。
誕生日当日は平日で理斗は外せない仕事が入っていたが、唯菜に仕事が終わったら必ず会いに行くと約束していた。
十九時に仕事が終わり、急いで唯菜に連絡する。
「これから唯菜が住む街に行きます。駅近のデパートで一緒に夕食をとろう」
「うん、仕事が無事に終わって安心したわ。私もこれから駅近のデパートに行くね」
数十分後、唯菜の住んでいる街の駅近のデパートのイタリアンレストランにふたりの姿はあった。
注文したマルゲリータとペスカトーレが運ばれ、ふたりでシェアする。マルゲリータからのバジルの香りとペスカトーレの魚介の味わいにふたりは満足する。
「あの……、唯菜は町工場で働いていて、普段はあまり華やかな思いをしていないかな、と思って」
理斗は少し緊張した表情で、カバンからリボンのついた箱を取り出した。
「それで、付き合ったばかりで、まだ指輪は早いかなと思って。でも、身に付けてもらえるものを選んだんだ」
「あ……、ありがとう。開けてみるね」
唯菜はリボンを解いて箱を開けた。中には、チェーンが銀色で文字盤がピンク色の小さな腕時計が入っている。
「あなたと共に過ごしていく時間が、今後も続きますように」
理斗が少し照れながらも、まっすぐに唯菜を見つめる。
「うん。素敵な腕時計をありがとう。とても嬉しい。幸せな誕生日になったわ」
唯菜も照れてしまったが、感謝の気持ちをほほえみで表現する。
「腕時計、大事にするね」
「僕は唯菜を大事にするよ」
唯菜の誕生日は、温かい雰囲気に包まれていた。
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