さかなの目

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さかなの目

小さな頃は父にべったりな子供だった。みんなのご飯と違い、父のご飯の時だけ必ず1品多かった。それは、お刺身だったり焼き魚だったりした。父が仕事から帰り、お風呂から上がるとテーブルに晩御飯が並べられる。わたしは胡座をかいた父の足の隙間に滑り込み一品多い魚を一口だけもらうのが毎日の楽しみだった。食い意地がはっている。 その中で大好きだったのが魚の目の周りのゼラチン状になった部分だった。食い入るように見つめ「目のとこ、ちょうだい」とおねだりをする。魚の目は二つしかないから毎回もらえるとは限らない。父の食べている側で、ひたすら待つ。すると「仕方がない」と箸でつついて口に運んでくれるのだった。 魚の身より目の周りが好きだった。自分たちが食べれる魚もたまに晩御飯に出てきたが頭の部分は無く、もちろん目玉は無かった。 今でも目の周りは好きだが、身の方がいい。
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