離婚前夜

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離婚前夜

 時計の針が、十一時を過ぎた。  後一時間で、「明日」が「今日」になる。  寝室の本を段ボールに詰めている作業をしていた手を止めて、私はそんなことを思った。  あと一時間で来る「明日」に、私はこの家を出る。  五年間生活した家を出るけれど、あまり感慨はなかった。  離婚前夜だと言うのに、妻は不在だった。  一ヶ月前にこの家を出て行ったきり、帰って来ないのだ。  もっとも、彼女にとっては、この結婚自体が間違っていたらしいので、今さら私の顔など見たくないのかもしれない。  五年前。  私達は、唯一無二の相手として惹かれあい、結婚したはずだった。  妻は、私を「初めて自分の意志で選んだ相手」と言い切っていたし、私もそうだった。  だけど。  その思いは結婚して早々に吹き飛んだ。  妻と出会った時、彼女は既婚者だった。
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