キミマツセカイ

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 悪気はないんだろうな、と私はカーテンを厚く閉めた窓を見る。満月の夜、私は何が何でも月を見ないようにしている。この街の、よくわからない言い伝えを聞いてからは尚更に。 「満月だから、見たくないのよ」  この町の、よくわからない都市伝説のようなもの。  “満月の日、零時に月を見てから眠ると、夢の中で貴方を待つ人に出会える。”  大事なのは、貴方“が”待つ人ではなく、貴方“を”待つ人、ということなのだ。つまり、もし私に会いたいと、私のことを好きだと思ってくれている人が誰もいないなら。満月に祈りを捧げても、夢で誰も会いに来てくれないということに他ならないのである。  夜に月を見るのは嫌いじゃない。  でも満月の夜だけは、月も見ないしいつもと違って夜ふかしもしないと決めていた。誰も迎えに来ないのがわかりきっている夢なんて、見たくもないに決まっているのだから。 ――ああ、でも。それももう、いいかも。  けれど。今の私にはもう、かえってそれもいいかもしれないなんて気になっているのも事実。  いい加減、人の目に怯えて、いつも独りぼっちの自分に惨めさを感じて生きるのもうんざりしていたのだ。いっそ誰かが殺してくれたらいいのに、なんてことを考えることもあるほどに。他力本願なのは、要するに自分で死ぬ勇気がなかったからで。まだどこかで、情けなくも生きることにしがみついていたからで。 ――でも。誰も私を待ってないんだってハッキリしたら、諦めもつくかも。  唯斗にそのつもりはなかっただろうが、私の心はそのメッセージで決まったのだった。  伝説を試してみよう。  そして、私のことなど誰も待っていないことを確認して、私なんかこの世界にいなくてもいいことをハッキリさせたら――そこで自分の命を終わらせよう、と。多少迷惑かがかるかもしれないが、電車にでも飛び込めば一発で死ねそうだ。幸いなことに、最寄り駅は複数の車両の列車が来る関係でホームドアが設置されていないのである。 ――よし。  夜の零時。  こっそり布団の中でゲームをして夜更しをしたところで、私は閉め切っていたカーテンを開けたのだった。まるで誂えたかのような晴天。そして、月のうさぎもくっきり見えそうなほど煌々と照らす銀色の満月を見た。  誰かの目玉でも浮かんでいるよう。そんな浪漫の欠片もないことを思ってしまったのは、私のネガティブな感情ゆえか。
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