キミマツセカイ

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 ***  自分が世間一般の女のコより、ちょっと不細工な類であることは物心つく頃に気付いていた。太っているのもあるがそれだけではない。とにかく顔の大事なパーツが肉に埋没してるように見えるとか、そばかすが目立つとか、鼻も耳もやけにでかくてぺっちゃんこだとか。ようは、ちょっと年頃の女のコが“嫌だな”と思う要素が、私の顔にはやたらと集中していたわけである。  それも、少しコンプレックスなだけで、昔はさほど気にしていなかった。クラスの子達にちょっとこそこそ言われるのは嫌だったけれど、それも気にしないようには努めていたつもりだったのだ。――五年生の時、明確にいじめを受けるまでは。 『あんた、四組の木月(きづき)クンのこと好きなんだって?』  きづき、なんて変わった名字は一人しかいない。唯斗のことだ。五年生で私は一組、唯斗は四組。体が弱くて休みがちなものの、成績優秀で気配り上手な唯斗は委員会で活躍することが多かった。何より女の子みたいに綺麗な顔した美少年と来ている。影でファンが多いのも当然と言えば当然だっただろう。  私に因縁をつけてきた女子は、いわゆるクラスの女王サマだった。多分、というかほぼ確実に、唯斗に気が合ったのだろう。だから気に食わなかったのだ、幼馴染みというだけで気を使われる私のことが。 『似合わないー!あれでしょ、美女と野獣の完全逆バージョン!不釣り合いにもほどがあるわー』 『な、何よ!』  その時。ああ、何で無駄な意地を張ってしまったのか。  私は確かに、昔から唯斗のことが好きだった。そしてなんとも恥知らずなことに、もう少し大きくなったらちゃんと彼氏彼女として付き合えるようになるんじゃないかな、なんて漠然と信じてもいたのだ。きっとそれは周囲にもバレバレだったのだろう。だからといって、言葉にしてそれをはっきり認めてやる必要などなかったはずだ。ましてや、明らかに私にいい感情を持っていないのが明らかである相手なら尚更に。 『だったら何!?何であんたにそんなこと言われなきゃなんないの!?恋愛すんのは私とあいつの自由でしょ!!』  両思いだなんて、勝手に思い上がっていた。何より私は自分の容姿を“ちょっと不細工な程度”だと過信していた。――だからだろう。女王サマの機嫌を完全に損ねてしまったのだ。それがいじめの契機になるのは、ある意味必然と言えば必然だったに違いない。  昨今のいじめは、昔みたいに物を壊すだの隠すだの殴るだの蹴るだの、なんてわかりやすい方向に行くことは少ないものだ。やることはシンプル。何をやっても言っても無視する。SNSでひたすら悪口を言う。みんなで班活動をとなれば必ず私は余るし、みんなで意見を出し合って何かをやるとなった時も空気のように私の意見だけ無視をする。そして、裏では罵詈雑言を書き込みまくる。地味に見えて、あまりにもきつい一年間だった。席替えで私の隣になった生徒が愚痴を零しまくっているのを見た日には、本当に死にたいほどの気持ちになるのだから。
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