キミマツセカイ

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 多分、前のクラスのその前のクラスから、女子たちの多くは不満だったのだろう――私が唯斗の隣にいることが。それが、女王サマとのやり取りで完全に爆発した形だったのだ。ただでさえ、彼女と違って愛嬌もなければ気を使ったり、運動会で活躍できるどころか常に足を引っ張るような運動音痴の私である。いじめに積極的に加担したのは一部でも、他の女子たちもなんとなく味方をしたくなるのがどっちであるかは明白だった。  下手をしたら、自分たちがいじめをしているなんて認識もなかったのかもしれない。ただ苦手な相手を避けているだけ――本人の前で堂々と悪口も言ってないんだから許されるでしょ。そう言われてしまったら、私も反論は難しい。  折り悪くその時唯斗本人とはクラスも別で、教室そのものも遠かった上、彼は風邪から喘息を悪化させて長期入院。戻ってきたのは五年生も終わりがけの頃だった。それさえ、まるで私が疫病神かなにかだったのように言われていたのだからどうしようもない。  一年間の地獄は、私を人間不信にさせるには十分だった。  友達の作り方なんかわからない。みんな、私のことが嫌いに決まってる。だったら空気のように、誰にも気づかれないように過ごしたほうがまだマシ。クラスの班分けや席替えで苦労することにはなるがそれだけだ、と。  女王サマとその取り巻きたちと別のクラスになっても、私の世界は薄暗いまま。私は“誰とも友達になろうとはしない”まま、小学校最後の夏を迎えている。 ――私は顔が醜いかもしれないけど、あいつらよりマシなんだから。  鏡は嫌いだ。だからいつも、美容院で髪を切ってもらう時は眠ったフリをして殆どの時間目を瞑る。 ――神様とやらがいるなら、みんな殺してくんないかな。……それともこんなこと考える、私のほうが殺されるべきなのかな。  いじめは終わったはずなのに、苦しみが耐えないのは何故だろう。通学班で、帰り道で、唯斗と一緒にいるのが怖くて仕方ない。また、あの女王サマたちがどこかで見ているのではないか。自分を叩くチャンスを伺っているのではないか、と。  新しいクラスの奴らも、明らかに私を扱いかねている。このまま誰にも愛されず、必要とされない人間なら、さっさといなくなってしまったほうがいいのでは。学校に行きたくないのに、行きたくないと言って両親を困らせるのも嫌。自分の苦悩は、いつだって行き場がない。 「!」  部屋で一人でゴロゴロしていた時、ぶるるっ、とスマホが震えた。自分にLANEしてくるような物好きなど、家族親戚以外は一人くらいしかいない。 『今日はごめん』  唯斗だ。何が悪かったのかもわかってないくせに、と反射的に打ちそうになって思い留まる。そもそも、彼が悪いかというとそれも微妙だ。彼はいじめに加担したわけでも、見て見ぬ振りをした人間でもない。元はと言えば、彼みたいな存在に私が恋をしたのが間違いだっただけなのだから。  返信に迷っていると、次が来た。 『今日は満月だよ、すごく綺麗だから見てみるといいと思う』 「……ばか」
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