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キミマツセカイ
出処も根拠も不明な言い伝え、なんて別段珍しくもあるまい。
例えばこの町でもそう。
満月の日、零時に月を見てから眠ると、夢の中で貴方を待つ人に出会える――なんて。
「くだんない」
私が一蹴すると、唯斗は眉を顰めた。
「何もそんな、キッパリ切り捨てなくても。女子ってこういう言い伝えとか、好きなのかと思ってたのに」
「嫌いじゃないけどね。人を呪う方法とか、嫌いな奴と離れ離れになるおまじないとかは積極的に知りたいし」
「歪んでんなお前」
放課後。二人で自宅に帰る帰り道。家が近所で通学班も一緒。体が弱くて運動部系のクラブに入ることもなく、塾に行かなくても頭のいい唯斗は、昔から私に付き合って一緒に帰ってくれることが多かった。小学校一年生からずっとそうだ。引っ込み思案で人見知りな私を気にかけてくれる気持ちは嬉しい。
最近はそれも、正直うざったく感じ始めてはいたけれど。
「当たり前でしょ。ちょっと気に食わないだけで、平気で人を仲間外れにして虐めて、人間って本当に救いようがないじゃない」
唯斗が悪いわけではない。
でも同情されるのはあまりに惨めで、ますます自分が嫌いになるだけで。
「私が去年どうなったか知ってるなら歪むのも仕方ないでしょ。つか、私が歪んだとしたらそれ、私が悪いわけ?あんたも結局そう思ってるんだ、ふーん。で、同情してあけてる俺優しいって自惚れてんでしょ」
「おい、何もそこまで言ってないだろ、夏菜子。俺は」
「何回も言わせないで。もうほっといて」
冷たく当たりたいわけでもない。それでも六年生になってからの私は、ずっとこんな調子だ。住宅街で、呆然と立ちすくむ唯斗を置き去りにしてずんずん歩いていく。
そんなんじゃない。
唯斗が嫌いなわけじゃない。
でも最近は、一緒にいるのが苦痛で仕方ない。だって私は。
――私だってもう、小さな子供じゃないんだから。周りの目くらい気付いてんのよ。
自分で言った言葉と現実にずたずたになりながら、ずんずんと歩く。目元がじわり、と熱くなって仕方ない。
――私とあんたは。一緒にいたらみんなにもっと……嫌われるだけなんだってこと。
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