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「生実っ。一緒に行こうぜ。」
僕は一人で大学の入学式に向かうつもりだったのに、何故か玄関には中学からの同級生が待ち構えていた。
「達夫くん、僕一人で行くって言ってたよね?」
陰キャでコミュ障の僕にはちょっと眩しすぎるその同級生は、輝かしい笑顔とともに僕の言葉を遮った。
「いやいや、生実は迷子になりやすいだろう。昔からどこか抜けてるし。」
余計なお世話だと思う。
それでも、言い返すのも面倒だし、彼は何を言ったって付いてくるだろう事は今までの経験上分かっていたから、僕は彼を置いてそのまま歩き始めた。
「なぁ、昨日眠れた?」
やはり当然、というように僕の隣を当たり前のように歩きだした彼は、僕が話しかけられたくないオーラを発していても構わず話しかけてくる。
「でも同じ大学に2人とも受かって良かったよな。生実は確実だったろうけど俺なんて本当にギリギリだったっつーの。」
そんなギリギリなら受けなきゃ良かったのに・・・。
と心の中で思う。
同じ高校から一緒なのはこの佐々木達夫(ささきたつお)一人だった。
特別仲の良い友達はいなかったし、いや寧ろ全く知り合いのいない場所に行きたかったと難攻不落と有名な大学を選んだのに。
何故か達夫くんは僕と同じ大学に行くと宣言し、周囲の心配を他所に何故か合格という僥倖を勝ち取っていた。
いや、もちろん彼が努力しなかったというのではなく、一生懸命勉強していた彼の姿は目に入っていたけれど、正直、僕と同じ大学じゃない別の大学を目指すというのなら、僕は諸手をあげて応援したことだろう。
面と向かっては言ったりしなかったけれど・・・。
「はぁ・・・。」
「なんだ?生実、風邪でも引いたか?」
徐に達夫くんが僕に向かって手を伸ばす。
ビクッ
「ご、ごめんっ。何でもないからっ・・・。」
僕がそう言うと、達夫くんは気まずそうな顔をして伸ばそうとしていた手を引っ込めた。
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