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「た、達夫くんっ。僕、本当に嫌だよっ。」 「大丈夫、大丈夫っ。みんなこうやって撮ってただろ。あ、すみませーん。写真撮ってもらっていいですか?」 達夫くんは早速近くにいた女の子二人組に写真を撮ってもらうよう携帯を渡している。 「あーいいですよ~。この後、私たちの写真も撮ってもらえます~?」 語尾を伸ばす女の子は嬉しそうに達夫くんに答えている。 ぜったい達夫くん狙いだ。 「オッケー、オッケー。じゃ、コレお願い~。」 「はーい。じゃ、2人とも寄って下さい~。あ、もっと笑ってね~。」 大きなお世話だ。 これ以上誰かに近寄りたくはないし、ニッコリ笑って写真も撮りたくない。 僕はぶすっとしていたんだろう。 女の子達は必死に「笑って~笑って~」と繰り返していたから。 しょうがない・・・ここは記憶をすぐに消去する方向で行こう。 僕は一刻も早くこの場所から逃げ出したくて、一度大きく深呼吸すると、彼女たちの「はい、チーズ」の声に合わせて渾身の笑顔を見せてやった。 わっ 不意に周りがザワついたのを感じて、僕は達夫くんの傍から脱兎の如く逃げだした。 「もう、十分でしょっ。僕、先に行くからね。」 約束していた訳でもないんだから、先に行くも何もないんだけど・・・。 それでも最低限度の礼儀と思って声をかけただけでもありがたいと思って欲しい。 僕は門から一目散に講堂の方へ駆けていくと、後ろの方で達夫くんが何か叫んでいるのが聞こえた。 ああ、もう目立ちたくなんてないのにっ。あんまり大声で呼ばないでよねっ。 僕はとにかく達夫くんから離れたくて、周りも見ずに走り続けた。 ++ ++ 「はー、はー、はー、く、苦しっ。」 ゼイゼイと呼吸を乱しながら、苦しくなって僕が立ち止まったのは、大学校舎の奥まった場所のようだ。 ・・・ようだ、というのは全く記憶にない場所だったから。 オープンキャンパスの時と、受験の時、そして合格発表の時と合計三度しか大学に来たことはない。 キャンパス内に詳しいわけはない。 「はー、はー。はぁ・・・ここ、どこ?」 分からない場所だったが、僕には勝算があった。 ずっと走ってきたんだから真っ直ぐ戻れば元の場所へ帰れるだろうと思った。 そして、その通り、真っ直ぐ歩いてきた。 なのに、何故か、人がまばらになっていく。
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