26人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
7
「赤里さん本当に助かりました! みんな喜んでたよ~!」
二週間前に貸した化学のノートを差し出しながら、クラスメイトの女子三人は声を重ねて「ありがとう~!」と手を合わせた。
すごく息が合ってるのは、今まで何度もこうしてきたからだろうなと思った。
「でさ、もし良かったら今度は世界史のノート貸してくれない?」
一人がそう言った。そういえば彼女の名前もよく知らない。
そのくらい私と彼女たちは接点がない。思い返せば、これまでも同じようなセリフしか聞いたことがない気がする。
私とは必要最低限のコミュニケーションしか取らないようにしてるんだろう。他に友達がいっぱいいるし。
きっと、すごく嫌なんだ。
友達でもない私のために自分たちの時間を割くことが。
「うん、いいよ」
「わ、さすが赤里さん優しい~!」
私はやっぱり怒れない。
けど、この理不尽を変える方法はひとつじゃないはずだ。
私にはそれしかできなくても、しなくていいわけじゃない。
「ありがと! 一週間後には返すから!」
「うん。じゃあ」
私は、私のやり方で。
この世界をちゃんと生きていく。
「楽しみにしてるね、クッキー」
彼女たちは一瞬きょとんとして、すぐに思い出したように表情を繕った。
「あ、うん! 今度作ってくるからね!」
「えっと、腕によりをかける!」
「あー、テスト終わってからになるかもだけど!」
女子三人は各々笑顔を引き攣らせながら去っていく。
本当にクッキーが貰えなくても別にいい。
ただ少しだけ『これ以上関わると面倒くさいかもしれない』と思ってくれればそれでいいんだ。
「痛そうだったな」
声のするほうに顔を向ける。
右隣に座る田所くんがにやりとしていた。
「これで何か変わるかな」
「さあね」
彼は右手のピストルを彼女たちの背に向けて、ばん、と撃つ真似をする。
私はそれを見て、少し笑った。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!