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「ねえ赤里さん」
昼休憩に自分の席でお弁当を食べていると、声をかけられた。
顔を上げるとクラスメイトの女子が三人立っている。何度か話したことのある人たちだ。
「わたしたち今度の数学のテスト範囲わかんなくなっちゃってさ。ノート取ってたら見せて!」
三人は声を重ねて「お願い!」と手を合わせた。すごく息合ってるなあ、と感心する。
「別にいいけど」
「わ、さすが赤里さん優しい~! 一週間で返すから!」
机から数学のノートを取り出して手渡すと、彼女たちはそれを両手で受け取った。そのまま「ありがとね~」と去っていく。
私は昼ごはんを再開しようと箸を持ち上げる。
「怒らないのか?」
右隣から声が聞こえた。
顔を向けると、田所くんが真っ直ぐにこちらを見ている。
「まあ別にビリビリに破られるわけじゃなければいいよ」
「そうじゃない」
彼は小さく首を振る。
「あいつら多分ノート丸写しするぞ。前もそうだったろう」
よく見てるなあ、と感心する。彼の目にはいつも何が映ってるんだろう。
そんな関係ないことを私が考えていると、田所くんはもう一度「怒らないのか?」と訊いた。
「怒らないよ」
私はそれだけ返事をする。
彼はそれ以上何も言ってこなかった。話は終わったようなのでお弁当の続きを食べ始める。
卵焼きは甘くて、プチトマトは酸っぱかった。
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