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「どうにも間違ってると思うんだよ」  授業が始まったばかりの教室で、右隣に座る田所くんは今日も眉を寄せていた。 「古典とは古くから残る芸術作品だ。素晴らしい作品に触れ、読み解き、心に感じたことを大切にすべきじゃないか」 「うん、確かにそうだね」 「では何故そこに正解不正解があって、点数をつけられるのだろう」  彼は先ほど返却された古典のテスト用紙を両手で持ってわなわなと震えていた。  私はちらりと彼の点数を覗き見る。これは大変だ。私なら三日は寝込む。 「数学ならわかる。物理でも。そこには確固とした道筋と正解があって、はっきり白黒分けられるからな。だが芸術作品の読み解き方に正しいも正しくないもないはずだ。俺は断固としてこの採点を認めない」 「そもそも読めてないんじゃない?」  田所くんの点数を見る限り、間違えているのが読解問題だけとは言えなさそうだ。文法から間違えている気がする。  私の質問には答えず、彼ははっと何かに気付いたように顔を上げた。 「思えば、頭脳の良し悪しを点数化して判断しようという教育システムが間違っているのかもしれないな。頭が良いことは勉強ができることと同義じゃない。このシステムでは点数が高い者ほど頭が良いと勘違いしてしまう恐れがある」 「本当に頭が良い人は何でもそつなくこなすもんじゃない」 「天才の話はやめてくれ。それよりどうしたらこのシステムを変えられるかを考えないか」 「それを変えるならまずは総理大臣になるとこから始めなきゃだね」 「なるほどな。じゃあ赤里さん、総理大臣になるにはどうすればいいと思う?」 「死ぬほど勉強するしかないよ」 「本末転倒じゃないか」  ガーン、と効果音でも聞こえそうなほどわかりやすく落ち込む田所くん。そんなことより大人しく勉強したほうが早そうだけど。 「ところで赤里さんは何点だったんだ?」 「私? 私はこのくらい」  こちらを覗き込む田所くんに自分のテストを向ける。  ガーン、ともう一度聞こえた。
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