4

1/1
前へ
/8ページ
次へ

4

「やっぱり赤里さんは優しいね!」  放課後、先週貸した数学のノートを返しに来たクラスメイトに今度は化学のノートを借りたいと頼まれたので入れ替えるように手渡す。   「今回のテストも赤里さんのノートがあれば無敵だ!」 「ほんとありがとう! 来週返すから!」 「今度お礼にクッキー焼いてくるね!」  女子三人は各々感謝を口ずさみながら去っていく。  うん、適材適所。勉強が得意な私は彼女らにノートを渡し、お菓子作りが得意な彼女らは私にクッキーを渡す。  これでいい。こうやって世界は回ってるんだろう。 「クッキーなんか一日で焼ける」  右隣から声が聞こえた。  顔を向けなくても誰かくらいわかる。 「ノートは三ヶ月だ」 「別にいいよ。知識は広めてなんぼでしょ。クッキー好きだし」  右隣を見ると、椅子に座った田所くんが教科書を広げていた。国語の教科書だ。  真面目に総理大臣を目指すことにしたんだろうか。 「広まると思うのか? あいつらが赤里さんのノートで真面目に勉強してるようには見えない。丸写しして、赤里さんが線を引いてるところを憶えてるだけだ」 「憶えてるだけでも偉いでしょ。クラス最下位よりは」 「それで勘違いするほうが問題だろ。勉強なんて一日でできるもんじゃない」  教科書から目を離さないまま彼は言った。  ああ。  田所くんはすごく優しいんだなあ。   「知ってるよ」  ――やっぱり赤里さんは優しいね。  彼女たちの言葉を思い出す。  別に私は優しくないよ。本当に彼女たちのためにならないとか、そういうことは考えない。  ただ怒らないだけ。  怒っても、良いことないから。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加