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「やっぱり赤里さんは優しいね!」
放課後、先週貸した数学のノートを返しに来たクラスメイトに今度は化学のノートを借りたいと頼まれたので入れ替えるように手渡す。
「今回のテストも赤里さんのノートがあれば無敵だ!」
「ほんとありがとう! 来週返すから!」
「今度お礼にクッキー焼いてくるね!」
女子三人は各々感謝を口ずさみながら去っていく。
うん、適材適所。勉強が得意な私は彼女らにノートを渡し、お菓子作りが得意な彼女らは私にクッキーを渡す。
これでいい。こうやって世界は回ってるんだろう。
「クッキーなんか一日で焼ける」
右隣から声が聞こえた。
顔を向けなくても誰かくらいわかる。
「ノートは三ヶ月だ」
「別にいいよ。知識は広めてなんぼでしょ。クッキー好きだし」
右隣を見ると、椅子に座った田所くんが教科書を広げていた。国語の教科書だ。
真面目に総理大臣を目指すことにしたんだろうか。
「広まると思うのか? あいつらが赤里さんのノートで真面目に勉強してるようには見えない。丸写しして、赤里さんが線を引いてるところを憶えてるだけだ」
「憶えてるだけでも偉いでしょ。クラス最下位よりは」
「それで勘違いするほうが問題だろ。勉強なんて一日でできるもんじゃない」
教科書から目を離さないまま彼は言った。
ああ。
田所くんはすごく優しいんだなあ。
「知ってるよ」
――やっぱり赤里さんは優しいね。
彼女たちの言葉を思い出す。
別に私は優しくないよ。本当に彼女たちのためにならないとか、そういうことは考えない。
ただ怒らないだけ。
怒っても、良いことないから。
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