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「どうにも間違ってると思うんだよ」
授業が始まったばかりの体育館で、右隣に立っている体操着姿の田所くんは今日も眉を寄せていた。
男女で分かれて整列し、ラジオ体操を終えて今日の授業内容を説明している。
「どうして女子はバレーボールで男子は持久走なんだろう。男女平等を謳っているこの世の中でこんな格差許されるのだろうか。先生は何を考えているんだ」
確かにふとした時、なぜか女子側が少し得をしていることがある。教育委員会とか保護者会とか、そういう大人の事情だろうか。
私は女子だからあまり気にしていなかったが、男子側からすればたまったもんじゃないだろう。
「田所、私語はやめろー」
いつものように怒っていた田所くんに体育教師の視線が向けられた。
彼は、これは好機とばかりに挙手をして疑問を投げかける。
「先生、どうして男子はバレーボールをさせてもらえないんでしょうか」
「……持久力はバレーボールに必要だろ」
「なんで男子が基礎錬で女子が試合なのかということです」
「コートも二つしかないから女子だけでいっぱいだ」
「半分ずつにしたらいいじゃないですか」
田所くんとの応酬に徐々に顔を歪ませる体育教師。
あ、そろそろヤバいな。
「うるさい早く走れ! これ以上授業の邪魔するやつは10周追加だからな! 田所は20周追加!!」
田所くんとは比べ物にならない迫力の一喝が体育館に響く。
「横暴だ!」と叫ぶ田所くんを引き摺って、男子は渋々コートの周りを走り出す。女子もなんだか贔屓されてしまったようで気まずい空気の中、ボールを取りに行った。
ほら。
怒っても良いことないじゃん。
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