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「確かに俺たちには何かを変える力はない。他人も、世界も、何も変えられない。変えられるとしたら、それは総理大臣を始めとした大人たちだ。子供は大人たちの作った世界を生きていくしかない」  彼は右手でピストルを作った。  何も撃ち抜けないピストルを見つめたまま話し続ける。 「でも、だからこそ伝えるんだ。主張するんだ。これは間違ってるんだって。よく見てくれって。言葉だけじゃ届きにくいから感情を乗せて。怒りを込めて」  田所くんは右手のピストルを(ほど)いて、拳を強く握り締める。  それは自分の武器を誇っているようにも、無力を悔しがっているようにも見えた。 「それでも大人は見向きもしてくれないかもしれない。でも、もしかしたら、一目だけでも覗いてくれるかもしれないだろ。そしたら誰かが気付いてくれるかもしれない。変えてくれるかもしれない」  彼は握った拳を開いて、机の天板に乗せる。  それを支えに、彼はゆっくりと立ち上がる。 「子供には結局それを願うことしかできない。俺たちにレーザービームは出せないから。でも、それしかできないからって、しなくていいわけじゃないだろ」  そして田所くんは真っ直ぐにこちらを見た。  本当に、その瞳には何が映っているんだろう。 「俺たちだってこの世界をちゃんと生きてるんだからさ」  彼の話を聞いて、私は頷いた。 「そっか」  納得したわけじゃない。そんなの理想論だ。  怒ったせいで関係が悪化して、二度と話を聞いてもらえないどころか危害を加えられることだってありうる。むしろその可能性のほうが高い。  でも。  もしも本当に彼の怒りが世界を変えたら、それはどれだけ素敵だろうとも思った。   「ああ、そういうわけだから彼女らにも一言言わなくては」 「え、今から?」 「もちろん。他人の努力をなんだと思ってるんだ」 「いやちょっと待って、って」  教室を出ていこうとした田所くんをすんでのところで引き留める。 「こういうのは私が言わなきゃだめでしょ」 「けど赤里さんは優しすぎるから、俺が代わりに」 「大丈夫だって。私には私のやり方があるから」  そこまで言って、なんとか彼はもう一度自分の席に戻ってきてくれた。  危なかった。私の代わりに田所くんが彼女たちと衝突していたら、明らかに事態が悪化していただろう。だって意味わかんないし。  そこまで考えて、急に可笑しさがこみ上げてきた。 「でも、ありがとう」  ふふ、と私の口の端から小さく笑い声が漏れる。  そういうところ全然考えないんだもんなあ。みんながみんな田所くんみたいな人たちばかりじゃないのに。  ああ、まったく。 「田所くんは本当に優しいね」
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