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「赤里さん本当に助かりました! みんな喜んでたよ~!」  二週間前に貸した化学のノートを差し出しながら、クラスメイトの女子三人は声を重ねて「ありがとう~!」と手を合わせた。  すごく息が合ってるのは、今まで何度もこうしてきたからだろうなと思った。 「でさ、もし良かったら今度は世界史のノート貸してくれない?」  一人がそう言った。そういえば彼女の名前もよく知らない。  そのくらい私と彼女たちは接点がない。思い返せば、これまでも同じようなセリフしか聞いたことがない気がする。  私とは必要最低限のコミュニケーションしか取らないようにしてるんだろう。他に友達がいっぱいいるし。  きっと、すごく嫌なんだ。  友達でもない私のために自分たちの時間を割くことが。 「うん、いいよ」 「わ、さすが赤里さん優しい~!」  私はやっぱり怒れない。  けど、この理不尽を変える方法はひとつじゃないはずだ。  私にはそれしかできなくても、しなくていいわけじゃない。   「ありがと! 一週間後には返すから!」 「うん。じゃあ」  私は、私のやり方で。  この世界をちゃんと生きていく。 「楽しみにしてるね、クッキー」  彼女たちは一瞬きょとんとして、すぐに思い出したように表情を繕った。 「あ、うん! 今度作ってくるからね!」 「えっと、腕によりをかける!」 「あー、テスト終わってからになるかもだけど!」  女子三人は各々笑顔を引き攣らせながら去っていく。  本当にクッキーが貰えなくても別にいい。  ただ少しだけ『これ以上関わると面倒くさいかもしれない』と思ってくれればそれでいいんだ。 「痛そうだったな」  声のするほうに顔を向ける。  右隣に座る田所くんがにやりとしていた。 「これで何か変わるかな」 「さあね」  彼は右手のピストルを彼女たちの背に向けて、ばん、と撃つ真似をする。  私はそれを見て、少し笑った。 (了)
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