序章

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序章

 日本地図にも記載されている某山の奥。幾重にも張られた結界の向こうに、妖鳥の一族“(らん)”が住まう里が存在する。  妖鳥とはいいながらも彼らは人の姿で生活する。唯一の食糧となる人間を惑わし、効率良く狩りをするためには同じ姿で生きるほうが賢明だからだ。  数百年も生きていれば他の妖といがみ争うことも少なくない。激しい戦いで多くの同胞が地に伏した。しかし鳥同士が番い、時には人間の女の腹を借りることで着実に一族の数を増やしていった。  里では二種類の鳥が尊ばれる。  まずは濃い妖力と高い戦闘力を併せ持つ鳥だ。  縄張りを求める者、劣情を発散させるべく雌を求めて侵入してくる者を退けるためには重要不可欠な戦闘要員である。  もうひとつは子供が多い鳥だ。  鳥は年々子供が生まれにくくなっている。理由は定かではないが、今や鳥同士で交配しても妊娠するのに数十年かかるのが当たり前となった。混血を気にしない鳥は人間の女を使うことで時間のロスを解決させる。母体は出産と同時に命を落とすが、たった十月十日で確実に鳥の子供が生まれるのだから誰もがこの案を好意的に受け止めていた。純血だろうと混血だろうと関係ない。全ての幹部を統べる長老も「血の純度で差別はしない」と明言している。  しかし、それでも混血を許せない鳥は確かに居た。滅びればそれまでの儚い種族であるにも関わらず、母親が人間だというだけで同胞を蔑む哀れな鳥が。  妖の鳥は長い永い時を生きる。  そして、狭い世界には狭い世界の規則や価値観がある。  これは現代を生きる人喰い鳥の日常を綴った物語。
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