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これは後の話だ。
私を家まで送り届けた男は、何故か引きこもりの兄に会いたいと言ってきた。
私はそれを許可して彼を兄に会わせた。
すると、驚くべきことが起きた。
彼に触れた兄が、二年ぶりに言葉を取り戻したのである。
「怒る気力を奪うだけではなく、与えることができないものかとずっと思っていたんです。ただ、怒りを欲しがる人がいるとは思えなくて、今まで実験することが出来ませんでした」
彼は心から嬉しそうな顔をした。
彼も自分の中の怒りを手放したかったのだろう。
「これからも会いにきていいですか?」と赤い顔をして尋ねてきた彼に、私は笑顔を浮かべて頷いた。
「はい、もちろん。兄も喜びます」
兄が言葉を取り戻したのは始まりに過ぎなくて、これからも社会復帰へ向けたリハビリが必要だ。だから彼が来てくれると助かる。
そう思っていたら、彼は恥ずかしそうに「いいえ、僕が会いたいのはお兄さんではなく……」と言って口籠った。
変な人だ。
でも、悪い人ではない。
「いつでもどうぞ」
私から怒りを盗んだ男は、その後何度も私の家にやって来ることになる。
彼がやって来ると、穏やかな気持ちが私を包む。
それが彼の体質のせいなのか、私の奥底に眠れるもののせいなのかどうか、私にはまだよく分からない。
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