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「緊急オペが一件入った。交通事故での外傷だ。対応できるか?」
「ああ、病院の前で起きたやつですか」
「そうだ、歩行者が巻き込まれた」
どうやら勘は的中したようだ。整形外科では交通事故の対応もおこなうため、外傷の手術が突然入ることもある。特に再建術や再生医療を専門としている高林としては宿命ともいえる業務だった。
ただ、仕事とはいえ、朝から一日の計画が乱されるのは気持ちが良いものではない。できるものなら誰かに代わって欲しいとさえ思っている。
そう、今日は高林以外にも手術対応できる者がいたはずだ。
「ところで、内村も今日、オペがなかったはずですが。彼には声をかけましたか」
高林は教授に聞き返す。
内村とは、高林の同級生で整形外科領域のがん治療を専門とする同級生だが、外傷の救急治療もそつなくこなすことができる。
彼の外科医としての腕はきわめて評判が良かった。臨床研究においても実績は高く、院内だけではなく、学会でも彼のことを知らない同業者はいないくらい、名が通っているのだ。
けれど、その後に続く安西教授の言葉はあまりにも意外なものだった。
「その内村が、事故に巻き込まれた被害者なんだ。彼の武器である右手が、ひどいことになった」
高林の背筋はゾクリと冷たくなった。
「わかりました。すぐに対応します」
すぐさま白衣に着替え、救急室に向かった。
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