43人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
★
救急室で横たわる内村は、右腕を抑え苦痛に顔を歪めている。覆ったタオルはおびただしい血液で満たされていた。
「まずいな……、出血が止まらない。それに手の感覚がないし、指も動かないみたいだ」
なにせ手は外科医の商売道具だ。内村は身上の不幸を呪わずにはいられないはずだ。
当直医が巻いた応急処置の包帯を外すと、右手は力なく垂れ下がっていた。傷口を確認したところ、手は青紫色に変色し、血液が行き届いていないようだ。すぐさまレントゲンの画像を入念に確認したところ、手の骨は粉々に砕けていた。
「内村、これから緊急手術だ。俺が執刀する」
「すまんな、頼む」
「できるだけのことはするが、傷がひどい場合は切断しなくちゃいけなくなるかもしれない」
「ああ、それは分かってる。まったく、よりによってこの手が挟まれるなんて」
「事故現場を見たが、かなりの衝撃だったようだぞ。下手すりゃ命を落としていたところだ」
画像と傷の状態を見ながら損傷の程度を推定し、どのようにアプローチするかを脳裏に描いていると、ほどなくして看護師が高林を呼びにきた。
「先生、手術の準備ができました」
「ああ、すぐに手術室へ向かう。内村を搬送して麻酔の準備を済ませておいてくれ」
「わかりました。麻酔科医にも伝えておきます」
そして高林は手術室へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!