コオルテオコル

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★ 高林と内村は医学部時代からの同級生だった。かつては接点の希薄なふたりだったが、同じ整形外科に就職してからは、毎日のように顔を合わせることになる。 高林にとって内村はライバルだった。しかし、内村が高林をどんなふうに見ているか、高林には分からなかった。ただ、内村は診療をそつなくこなし、手術の腕をめきめきと上げていった。 内村は若くして腫瘍治療班のサブリーダーとなった。 そして異例の早さでその名を医学界に広めた。あれよあれよという間に、国内でも注目度の高い若手医師として取りざたされるようになる。 そんな彼の手術は見事としか言いようがない。涼しげな顔で粛々と病巣を取り除き、最後に必ずこう締めくくる。 「切除、完了」と――。 さらに、高林が感心したのは内村の腕だけではなく、彼の謙虚さだった。 「なかなかやるじゃんかよ、お前のお蔭で、うちの医局の評判は上々らしいぞ」 「ああ、それはよかった。でも、僕のおかげじゃなくて、この右手のおかげだよ。腫瘍を切ってくれるのはこいつなんだから」 そういって高林は、力強さと繊細さを兼ね備えた右手をまじまじと眺めた。 専門が再建術と腫瘍学という異なる領域ではあったが、高林は内村の客観的な評価を意識せずにはいられなかった。ふたりの間に開いた差に、高林はしだいに焦燥をあらわにしてゆく。 なぜなら、大学の医局では立場が上に行くにしたがってポジションは狭くなり、能力の及ばない者はそぎ落とされてゆくからだ。 過酷な競争世界において、内村は高林の進む道に立ちはだかる、幻影のような壁だったのだ。
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