コオルテオコル

5/12

43人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
★ 手術が無事、終わった。 内村は虚ろな目で両手を宙に漂わせている。麻酔の効果が残っているせいで朦朧としているのだ。そして厳重に包帯が巻かれた右腕は、その対側の無傷の腕よりも明らかに短くなっていた。 高林が下した決断は「切断」だった。手術が無事に終わった、というのは、あくまで出血死を免れ、傷からの感染を最大限、予防できたという意味だった。彼の右手は手首からすっぱりと失われていた。けれどおぼろな意識の内村はその事実にまだ気づいていない。 高林は腫瘍治療班のリーダーである安西教授とともに、内村の病室を訪れていた。被害者となった内村を目の前にし、安西は悲痛の面持ちで切り出す。 「彼はまさか、自分の手術室(ホームグラウンド)で一番大切な右手を失うことになるなんて、思わなかったろうに」 「切断しなければいけない状態だったのは正直、俺も悔しいです」 「外科医としての彼を失うことは、われわれにとって大きな損失だ」 「本当にそうですね。ただ、これがベターな選択肢だったと信じています」 けれど教授は怪訝そうな顔で高林に目を向ける。 「ところで切断した手はどうした」 「冷凍庫に保存してあります。ただ、もう機能しないと思います」 「いや、冷凍保存してあるなら回復できる可能性があるぞ」 「は? 回復?」 高林は耳を疑ったが、安西の言葉は言い間違いではない。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加