コオルテオコル

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★ 医局から人が消えた深夜、高林はひとりで検体保管庫へと向かった。棚から加温器を取り出し、蒸留水を流し込んでから電源をつなぐ。水温は三十七度に設定した。 検体保管庫の冷凍庫を開けると、そこには切り取られた内村の右手が凍結保存されている。 丁重にビニールパックで梱包されているそれを冷凍庫から取り出す。水蒸気の曇りを拭き取って中を覗くと、手は血色の良い肌色のように見えた。血は流れていないはずなのに。 加温器に貯めた水が温まったところで、内村の右腕を袋のまま漬ける。凍った手を解凍するためだ。 湯の中に浮かぶ手を眺めていると、ふつふつと灰色の感情が沸き起こる。 ――なんでいつもこうなんだ。あいつは腕を認められ、いまや整形外科医として名が通っている。同じ道を歩んできたはずなのに、俺の努力はあいつの陰に隠れ、ただの小間使いであり、都合の良い労働者だ。 内村は高林にとって、やはり大きな壁だった。不慮の事故は彼の外科医としての生命を途絶えさせるかもしれないが、もしかしたら奇跡の復活のプロローグなのかもしれない。そうなれば彼の経歴はさらに注目を集めるに違いない。 高林の心の奥はさらに黒く塗りつぶされてゆく。 ――このままでは、俺のプライドも、俺の将来も、内村の右腕に奪われてしまう。だけど、不慮の事故という、千載一遇のチャンスが訪れた。このチャンスを逃すわけにはいかない。だから手術は絶対に失敗してもらわないとならないのだ。
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