ぼくは

1/1
前へ
/9ページ
次へ

ぼくは

 やがてお父さんとお母さんも眠ってしまい、暗い部屋の中で残されたぼくは、それでもまだ祈り続けていた。   「おいお前、まだそんなことしてるのか?」    隣から声が聞こえた。僕の祈りを潰してしまうような、意地悪な声。   「そんなことしたって無駄だって。明日の天気はもう決まってるんだから。それにお前みたいな不格好なやつの言うことなんて、神さまだって聞くもんか」    こいつの言うとおり、はっきり言ってぼくはいい出来なんかじゃない。目は左右の大きさが違うし、口はガタガタと歪んでいる。頭の形だってでこぼこ。  隣のやつみたいに、まんまるな頭も、にっこりと笑った愛らしい顔もしていない。  だけどそれがなんだ。ぼくは知ってる。悠くんが頑張ってぼくを作ってくれたこと。願いを込めて布を丸めてくれた。小さい手をぷるぷると震わせながら、慎重に書いてくれたんだ。  なんて誇らしい、ぼくの姿だろう。ほかのてるてる坊主はみんな、お父さんとお母さんが作ったから、きれいな姿をしている。ぼくだけが不格好、ぼくだけが、悠くんが作ってくれた。   「そんなことないよ! 明日は悠くんのためにぼくが晴れにするんだ。きっとできる。ぼく、神さまのところに行ってくる!」    そう言うとぼくはうんと体に力を込め、布でできた体から抜け出した。ふわりと浮かび上がろうとしたものの、よれよれの体では上手く浮かべない。ゆっくりバランスをとって、何とかまっすぐに体勢を整える。   ──よし、行こう。悠くん、待っててね。ぼくきっと神さまにお願いして、明日は晴れにしてもらうからね──    窓ガラスをすり抜ける直前に、また隣のやつがなにか言っているのが聞こえた。きっとまた、文句を言っているんだろう。だからぼくは止まらずに外へ飛び出した。   「待てって。そんなこ……たらお前、……なく、な……ぞ……」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加