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てるてる坊主の幸せ
「ただいま!」
パタパタと軽い足音が廊下を走ってくる。後ろからはゆっくりとした足音がふたつ、くすくすと笑う声と一緒についてくる。
「あのね、てるてるぼうずさん。ぼく、うんどうか、い」
勢いよく走りながら言っていた言葉は、窓際を見上げると途切れてしまった。あれ?と辺りを見回す男の子。
「ママー。ぼくのてるてるぼうずさん、いないよ」
「あら本当。落ちちゃったのかしら」
母親の言葉に、男の子は床に這うようにして辺りを探す。するとカーテンの向こうでちらりと覗く白い布を見つけ、あったあったと嬉しそうに母親に見せている。
「ねぇ、てるてるぼうずさん。きょう、すっごくいいおてんきだったの。うんどうかい、ぼく、がんばったんだよ。ありがとう、てるてるぼうずさん」
ほら、と窓を開けると、青く晴れた空を見せるように、両手でてるてる坊主を持ち上げた。
その時。
空からひと粒の雨が、てるてる坊主の顔にぽつりと落ちた。まるで涙のように、雨粒は布を濡らす。
「あっ、ママ。あめがふってきた!」
運動会の間は晴れていて良かったね、てるてる坊主が頑張ってくれたんだよと話している親子。
男の子の小さな手の中、てるてる坊主は歪なその顔に涙と笑顔を浮かべていた。
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