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対峙(一)
『俺は援護に回るから、お前が怪異を収めてみろ』
林に入る前、晴道に言われていたことだ。
だから、玉瀬は先ほど池の直前で立ち止まり、本物の師の気配が近くにあるか確かめたのである。この場に、共に踏み込む必要があったからだ。
「我が師に狙いを定めたところ悪いけど。お前の相手は、おれが任されてるんだよ」
女と対峙しているからには、玉瀬ももちろん池の上だ。
何かの拍子に結界が消えれば、すぐ様不利に転じる足場。だが、そんなことは承知のうえで、平然と立つ。
「さあ、決着をつけよう」
言うが早いか、右手に数珠を巻きつけて短刀を握った。口の中で呪文を唱え始める。
“腕”には左右で違う意味がある。数珠を右手に携えれば、力を外へ放ちやすいとされていた。そして、“呪文”は言霊であると共に自己暗示のようなもの。唱えることで一点に集中するのを助け、力を最大限に発揮できるのだ。
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