対峙(三)

1/1
前へ
/21ページ
次へ

対峙(三)

 ところが、今まさに女に喰われようかという状況で、それでも玉瀬は思考を止めてはいなかった。  首が絞まる直前、玉瀬はとっさに、首と女の腕との間に手首を滑り込ませていた。それで少しばかりの隙間ができ、なんとか意識を刈り取られることは免れたのだ。  息苦しさに耐えながら、腰に付けていた袋を掴む。  そうして、それを力一杯、女に投げつけた。  中にはたっぷりと砂が入っており、たちまち女はぎゃっと叫ぶ。それから、慌てて砂を払い始めた。  水・火・金・木・土を基本とする五行相剋(ごぎょうそうこく)というものがある。その考えにおいて、水は土の属性に弱い。故に、水の怪たる女には、目潰し以上の効力があった。  力の緩んだ腕をすり抜け、玉瀬は咳き込みながらも体勢を立て直す。 「残念だったな。食事はおあずけだ」  数珠をきつく巻き直す。  呼吸を整え、詠唱も再開する。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加