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対峙(四)
玉瀬は先ほどよりも素早く動き、女に短刀を突き立てた。
今度こそ、それは相手の急所を貫く。
砂を被った時とは比にならない絶叫が、鼓膜をびりびりと震わせた。驚愕を浮かべた女の体は、滝のように崩れ去っていく。
最期を見届けた玉瀬は大きく息をつき、ようやく土の上に戻った。それを確かめて、晴道も池から手を離す。
「よくやった。お疲れさん」
「師匠も。ありがとうございました」
安堵と共に視線を交える。
師が迫る相手を躱そうとしなかったこと、玉瀬が平気で水面に立ち入ったこと……全て、互いへの信頼があってこそだ。
あっさりとした言葉の中には、「信じていた」も含まれている。
そして、自分と水の怪が対峙している間も終始、集中力を要する池の結界が揺らがなかった事実。一人前の術師を目指す玉瀬にとって、それは自信に繋がる嬉しいことであった。
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