9人が本棚に入れています
本棚に追加
束の間の寄り道(二)
さて、のんびり腰を下ろしていると、不意に店主の男から声がかかった。
「お客さん、旅のお人だろう? 今日はどこぞで宿を取るつもりかい?」
いきなりの問いに、二人は振り返って頷いた。
「ええ。この季節に野宿は、少し辛いので」
玉瀬がそう応じる。
もう半月もすれば年が明ける、冬の只中だ。夜に野ざらしで過ごすのは、できれば御免被りたい。
「それなら、そろそろ出発したほうがいいよ。隣町まで行かないと泊まれる所はないからね」
言われて、師弟は顔を見合わせた。
それから辺りに目をやって、玉瀬が首を傾げる。
「ですが、ほら。宿なら少し先に見えますよ? それとも、利用客が多くて入れないんでしょうか?」
その言葉どおり、少なくとも二軒の宿屋が視界のうちにあった。食べ物は持参し、他の者と隔たりのない板間で眠る安い木賃宿だ。
先ほどから道行く人もさほどいない。そのため、空きはあると思われるのだが。
玉瀬が問うと、店主は頭を振った。
最初のコメントを投稿しよう!