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不穏な噂(一)
「宿は今、やってないんだ」
「二軒とも?」
「そうだよ。うちも、今日はもうすぐ店じまいするし。他にちらほらある店も同じさ」
「まだ、昼八つ(午後三時頃)にもなってませんが。随分早いんですね」
玉瀬は目を丸くした。晴道も不思議そうな表情を浮かべる。
そんな二人に、声を落とした店主がそっと告げた。
「実は……この近くに人を呑み込む池があってね。昼間は鳴りを潜めているが、日が傾くと怪しい力で人を引き寄せて餌食にする。だから、私らも明るいうちに帰るし、ここを通りかかった人にも、そう促しているんだよ」
そのせいで、夜にこの地に留まることは危ういと、宿は閉まっているわけだ。
不穏な話に、師弟そろって眉根を寄せた。
すぐに晴道が尋ねる。
「いつ頃から、そんなことが?」
建物があるからには、宿も以前は利用されていたはずだ。ならば、古くからの言い伝えではないだろう。
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