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不穏な噂(三)
「幾人もいなくなった後だから、池の水面が輝く様子さえ不気味に見えたもんだ」
「しかし、それだけで池が人を呑み込んだというのは、少々話が飛躍してませんかね?」
晴道が言うと、店主が言葉を継いだ。
「それがね……あったんだよ。姿を消した人たちの持ち物が」
池の周りに散らばる物を確かめて、皆はぞっとしたという。
水は大変澄んでいて、目を凝らせば底まで見えた。そこで、恐る恐る覗いてみたのだが、水中に人の影は認められなかったらしい。単に溺れたわけではないと分かる。
「それどころか、池自体には落ち葉一枚浮かんでいなくて。それが余計に異様だったよ」
留まっているだけで肌が粟立ち始めたので、彼らは早々に引き上げた。それからは、仕方なく早じまいの日々を続けているという。
近頃は余所で商品を売って凌ぐ日もあれ、長く商いをしてきたこの地を完全に捨てきることもできないのだ。
師弟は互いに目配せし、やがてひとつ頷いた。
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