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束の間の寄り道(一)
峠の道に、から風が吹いた。
二人の男たちは、とっさに身を縮めて近くの饅頭屋に入る。
その後、頼んだ饅頭が運ばれてくると、熱い茶と共に楽しみ始めた。
「ああ、美味い。甘いものが染みますねえ」
そう言って顔を綻ばせたのは、数えで十五の玉瀬だ。年の割に小柄な少年で、見目や言動も相まって人懐こい印象である。
「甘味なんて滅多に食べられないからな。たまには、こういう褒美があってもいいだろう」
向かいに座る男も、両手で湯呑みを包んで暖を取り、寛いでいた。三十代前半、上背があり精悍な顔立ちの晴道は、少年の師である。
店には、小豆餡の入った砂糖饅頭と塩味の効いた菜饅頭があったが、この日は奮発して甘い菓子を口にしていた。
まだまだ甘味が貴重な戦国の世だ。庶民にとって、ほんのりとした甘さは特別なものであった。
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