本当に私を待っていたものは

1/1
前へ
/1ページ
次へ

本当に私を待っていたものは

家に帰ると聞き慣れた「おかえり」という声がなかった。 机の上には、白紙の離婚届と缶ビールが置いてある。 妻の欄に名前がないという事はすぐに出す気はないのだろう。 仕事で疲れているのに、追い討ちをかけないでくれ。 何かあるなら直接言ってほしい。 そう思いながら冷蔵庫を開けると冷えた缶ビールが入っていなかった。 しょうがなく机の上のぬるくなった缶ビールを開ける。 結婚して3年。 思い返すと、自分で冷蔵庫に缶ビールを補充した事は一度もない。 いつも、冷やして待ってくれていたのだろう。 「何でもない事でもありがとうって言ってくれるだけで頑張れるのに」 そんな言葉を今更になって思い出す。 いつしかしてもらう事が当たり前になっていた。 置いてあったのは離婚届と缶ビールではなく、無言のメッセージだったようだ。 帰ってきたら謝ろう。 そして感謝の気持ちを伝えよう。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加