6人が本棚に入れています
本棚に追加
今日の帰りは、ユータにもコーヘイにも会えなかった。だから、一人ぼっちでサイズの合わない靴に履き替えて、校門をくぐる。吹奏楽部の演奏は、初めのころに比べるとずっとうまくなっていて、まるでCDを聴いているみたいだった。
ユータはずるい。
コーヘイの言葉がぐるぐると頭の中で回っている。
私だって気付いてないわけじゃない。
どんなに不満があっても、ユータはマユに直接言ったことはない。マユの前ではいい彼氏の顔をして、その裏で私に愚痴をこぼす。
私の気持ちだってきっと知ってる。でも、あの日私にキスをしたのは、その気持ちに応えたから、じゃない。
あれはマユの愚痴を言うことの延長線上にある行為だ。マユに対するちょっとした復讐。それなのに、おかしなことだけど、ユータはマユを傷付けたくはなかった。だから私だった。
私は絶対ユータに怒らないし、マユにも絶対言わない。そんな確信があったから、したんだ。
ずるいと思う。ひどいとも思う。
それが分かっているのに、二回目をずっと待っている私も、同じくらいずるい。
ユータ、コーヘイ、マユ。
それぞれに違う私がいればいいのに。私が一人しかいないから、こんなふうに気持ちが引き裂かれてしまう。ぜんぜん違う気持ちが三つ、私の中でぐるぐる回り続けている。
マユのイヤホンから漏れていたのと同じ音楽が、ずっと追いかけてくる。
逃げるように走った。音楽が聞こえてこないところに行きたかった。歩道に散らばる無数の落葉を、全部踏んで粉々にしたかった。何ひとつ、音を立てないでほしかった。
途中、つまずいてよろめいた。ローファーの爪先が地面に擦れて白い傷がつく。指先でこすっても消えない傷だった。
最初のコメントを投稿しよう!